第6話

学校から駅まではだいたい10分、俺たちは朝登校した桜並木の坂道を下っていった。

坂本は自転車で登校していて、それ以外は徒歩での通学だ。

前に列に南雲と宇佐美、後列に俺と自転車を引いた坂本が並んで歩いた。

俺の前を歩いていたのは宇佐美で、一歩が小さく何度も足を急がせて南雲についていこうとしていた。


「わたしと結里花は南中なんだけど、2人は?」


カバンをぶらぬら揺らしながら南雲が尋ねた。


「俺はこっから駅5つ分のとこにある夏中ってとこだな」


「へぇ~夏中か~。たしかバスケ強いよね~」


「おっ、そうなんだよ。ついでに俺もバスケ部だったんだぜ~!」


「すご~!てかうちも元バスケ部なんだよね!」


「まじかよ!」


...と2人で会話が進んでいく。


取り残された俺と宇佐美。宇佐美がチラチラと俺の様子を確認する。

そして恥ずかしそうに赤面しながら、


「ささ...き君は中学校どこなの...?」


と尋ねた。


「俺は西中だよ」


「あ、結構近い...」


「そうだねうちの学年も南中と西中ばっかりっぽい」


「うん。...知ってる名前ばっかりだったよ」


「やっぱそうだよね」


「...でも私は奏音ちゃんが一番仲いいから安心なんだ」


「へぇ~ちょっと意外だね」


「ふふっ、よく言われるよ?実は幼馴染で家が近所なんだ」


...意外と話せる。


超シャイでなかなか話さないと思っていたが、以外にも自分自身のことを打ち明けてくれるようだ。それとも緊張で普段より口数が多いのだろうか。


ともかくお互いが身の内を話しているとあっという間に時間が過ぎ、目的地のカフェに到着した。


4人席に腰掛けおのおのが好みの商品を注文する。

コーヒーだけでいいと思っていたが、周りが食べ物を頼んでいる中飲み物だけってのは空気が読めない。

なので俺は一番安いフルーツサンドを注文した。


薄いパンの間にはマンゴーやパインなど色とりどりのフルーツが宝石のように散りばめられていて、その重量感はかなりのものだ。


フルーサンドに焦点がいっていたが、向かい側の席から視線を感じて焦点を移すと宇佐美がキラキラと目を輝かせている。

実際には俺よりも、俺の手元にあるフルーツサンドに視線が行っていた。


「...半分食べる?」


明らかに物欲しそうにしていたので尋ねてみる。

宇佐美は自身がフルーツサンドに夢中になっていることに気づいていなかったようで、その小柄な体を大きく跳ねさせた。


「でも...」


ちょうど宇佐美の前には大サイズのドーナッツが届いていて俺の商品とを交互に見ている。以外に食いしん坊らしい。


「全然構わないよ。実のところあまりお腹が空いてないんだ」


そういうと彼女は申し訳無さそう半分に、しかし期待に満ちた顔半分で俺のフルーツサンドを受け取った。


「...ありがとう。大切に食べるね」


「そんな深刻に思わなくても...。また今度4人で来れば良いんだし」


そう、また4人で来れば良い。

高校生活は始まったばっかりじゃないか。


「...うん!また一緒に行きたい!」


そう言うや否や宇佐美はフルーツサンドを見つめながらドーナッツをモキュモキュとリスのように食べ始めた。

それがなんだか可愛らしく、俺は肩肘をつきながらその様子を眺めていた。


「ふーん、そんな感じなんだぁ」


俺の視界外から南雲の試すような声が聞こえたが、俺は宇佐美を眺めることに夢中で気にもとめなかった。



これが後の俺の恋人、宇佐美結里花との出会いなのであった。



「ふーん、そういうことしちゃうんだ~」


今まで晴人が私以外の女と積極的に話すことはなかった。

それは単に晴人が私以外の女性と話す機会がなかったからだ。


機会がない。それは厳密に言うと語弊がある。

正確に言うと機会を奪われた、というのが正しい。

奪われた、誰に?無論私だ。


というのも私が今まで晴人の異性との交友に目を光らせていたからだ。


最初は無意識だった。晴人の後をついていくだけで周りの女子を牽制していたのだ。

だが、そう。あれは中学3年生の時だ。

晴人がクラスメイトの女子に告白された。

当時恋愛感情というものを理解していなかった私はその事実に戸惑った。


晴人はいつも私に良くしてくれた。いつも隣りにいて、寄り添って、私が欲しい時に欲しい言葉を投げかけてくれた。ただお互い特別な存在なのだと感じていた。


だが違った。

あろうことか晴人はそのクラスメイトの女子との交際を始めた。

いつもの登下校の道も私とは歩かなくなった。昼休みも私とは話さなくなった。

嫌だった。嫌だった。嫌だった!


晴人は私のことを特別に思ってくれていると信じてたのに!

お父さんに不倫されたお母さんの気持ちも理解できる。

自分だけを特別に思ってくれていた人が突然遠くに行っていまう孤立感。


言葉にならない怒り、苦しみ、悔しさが溢れかえり胸が締め付けられた。動悸が早くなり頭の中が急激に冷えていくのを実感した。そして漸次的に理解した。


そっか。わたし晴人のことが好きなんだ。


理解を得てからは早かった。

すべきことが明確化したからだ。


幸い元の顔が良い私は、クラスの全員から好かれるように外見に力を入れた。

女の子らしい仕草、話し方、体作りに注力した。


学校の男子全員が私のことを好きになった頃、私は次の行動に移っていた。

今まで通りなるべく晴人のそばにいることだ。


登下校、昼休み...そんなものは関係ない。とにかくあの破局すべきカップルの間に割って入った。

今思えば嫌な女だと自分で思う。

実際周りからはカップルの邪魔をする空気の読めない幼馴染だと思われていただろう。


だが日が立つに連れ周りの反応は私の予想通りに変化する。


「ぶっちゃけ聖澤のほうがお似合いじゃね?」


そのような噂が蔓延し始めたのだ。


やった。思い通りだ。


周囲の空気を感じ取ったのかそこから約1週間で晴人とその彼女は破局した。

周囲の噂に無頓着な晴人からすれば意味不明だったのだろう。私に責任を追及することはなかった。というよりそもそも晴人自身もそこまで彼女を好きではなかったのだろう。


ただ私のほうは違う。私は晴人に、私を傷つけた責任を追及する権利がある。

ほかの女にうつつを抜かした分、私を不安にさせた分、埋め合わせが必要だ。


なら私が告白して付き合うか?


否。それは駄目だ。

私からそれを言い出せば立ち場がない。

私が晴人のものになる、というのも非常に魅力的ではあるが、だが駄目だ。

晴人が私のものにならなければ意味がない。


晴人には絶対に私のことを好きにさせる。


それが私の悲願だ。





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いい感じのクラスメイトと幼馴染の両方に言い寄られる話 一般大学生 @roriking

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