第5話

入学式を終え、ホームルームでそれぞれ自己紹介をする流れとなった。

坂本、南雲は元気よく、俺は普通に、そして宇都美は弱々しく自己紹介をしていた。

そこから昼前まで学校の説明や授業のカリキュラムなどを先生が指導したが、なんやかんやあり授業は終わり、少し早い放課後となった。


入学式特有の緊張感が一気にほぐれ生徒各々は新しい友人、中学からの友人と帰宅したら、教室で駄弁ったりしている。

かくいう俺も新たな友人と集い話している途中だ。


家がどこ~やら、チャットアプリのIDを交換しよう~やら大忙しだ。

まだ1日目という事もあってそれぞれがぎこちない様子だが、これから1年このメンバーで様々な行事を経験すると考えるとなかなかに楽しみで胸が踊った。


 もちろん坂本、南雲、宇都美ともIDを交換した。

その際4人のグループチャットの作成を南雲が率先して行ってくれた。

全員異論はなく、この先この4人で集まったりするのかな、などと想像していると、


「さらなる親睦も兼ねて駅前のカフェに行かない?美味しいドーナッツが売ってるって~」


というなんとも高校生らしい提案を南雲から受けた。


「俺は全然okだぜ!」


と、いの一番に坂本が。


「佐々木くんと結里花は?」


「俺も大丈夫だよ」


「ど、ドーナッツ...たべたいかも」


次いで俺と宇都美の了承を得、4人で駅前のカフェに向かうことになった。


それぞれ帰る支度をし、再度一箇所に集まったタイミングで教室のドアが軽快に開いた。

俺たちや残っていたクラスメイトの視線が一斉に集まる。


「となりのクラスの聖澤といいます。佐々木くんいますか?」


視線の先にいたのは瑛麻だった。

そして一面を見渡した彼女はすぐさま俺を視認し、ズカズカと教室に割って入ってきた。


「遅れてごめんね、晴人。みんなから連絡先聞かれて手間取っちゃった」


「瑛麻...」


「でも私のこと待っててくれるなんて流石は幼馴染。一緒に帰ろ?」


先程の距離からは更に近づき、体が触れそうな距離までにじみよる瑛麻。小さな力でクイクイと俺の制服の袖を引っ張る。

普通の男子ならば一撃で恋に落ちるガチ恋距離。からの袖クイ。

だが悪いな瑛麻、長年一緒に過ごしてきた俺には効かないぜ。


「悪い今日新しくできた友人と一緒に帰ることになってるんだ。お前も交友関係のためにクラスのやつと帰ったらどうなんだ?」


慣れた手付きで彼女の手を振りほどき、諭すようにつぶやくと、明らかに不機嫌そうな瑛麻が再度距離を詰めてきた。

急接近したせいで腕に押し付けられた胸がグニャッと形を変える。


「ふーん。私以外の子を優先しちゃうんだ...。そんなことしちゃうと勝手に彼氏作っちゃうよ...?」


まるで脅しているかのように煽り顔を披露する瑛麻。

が、その脅しはむしろ好都合だ。


「好きにしたら良いんじゃないのか?俺には関係ないもんな」


まるで彼女の脅しが効いていないことを表すようにあえて突き放すような口調で言い張った。


「っ....!ちょっとそれどういう意味...?」


明らかに態度を変える瑛麻。

が、今日は入学初日。さすがの彼女も外面に関してはわきまえているだろう。


「...ま、いいや。今の話は後でたっぷり聞かせてもらうからね?は・る・と?」


教室の空気感を察知した瑛麻はそう言い放つと、そそくさと教室から出ていった。


「待たせてごめん。そろそろ行こっか」


「「「う、うん...」」」


疑問の多そうな視線を受けながら俺たち4人は改めて駅前のカフェに向かうことにしたのだった。










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