忌憚なき奇譚

キグルミ

私の怪談

 これは私が大学の帰りにコンビニに寄った時の話です。

 レポートの提出期限が迫っていた私はそれを徹夜で終わらせようと夜食用にカップラーメンを買いに行きました。

 店に入ると店内には3列の商品棚が並んでおり、そのうちの入り口から見て2列目と3列目の商品棚の間の奥の方に足元が見えないほど丈の長い赤色のワンピースを着た女性が立っていました。

 その時の私はコンビニにだって幽霊が出ることくらいあるか、とあまり気にはしていませんでした。

 しかし、幽霊を避けてコンビニの中をぐるっと一周してあることに気がつきました。どうやらカップラーメンの売り場は幽霊の正面にあるようなのです。私は幽霊を視界の端に入れて観察しました。見たところその幽霊はその土地に縛られている地縛霊で下手に近づけば浮遊霊のようにただ付き纏うだけでは済まされなさそうでした。

 どうしたものかと先週に目をつけられて以来、片時も離れようとしない傍迷惑な浮遊霊を睨みつけながら考えていると地縛霊の方の幽霊がスーッと、体を全くと言って良いほど揺さず、まるでゲーム上のグラフィックのように不気味なほどに澱みなく体をこちらに振り向かせようとしていました。

 それを見て地縛霊の状態に気づいた私はこれはまずいと思い、渋々適当に菓子パンを2つ掴んで会計を済ませるとコンビニを後にしました。


 これは後日友人に聞いた話です。

 友人はバイト終わりに私が行ったあのコンビニでよくチキンを買って帰っていたそうなのですが、ある日、いつも同じ服装の女性が同じ場所に立っていることに気がついたそうです。友人はバイトのシフトが毎週ほとんど同じこともあり、生活サイクルが近いのかもしれないくらいにしか考えていなかったそうなのですが、しかしそれでも、いつも着ている床に着きそうなほど裾の長い赤いワンピワースは印象に残ったそうです。

 そんなある日、友人はネットで話題になっていたコンビニ限定のカップラーメンを買おうと思い立ちました。しかし、その棚はいつも赤いワンピースの女性が立っている場所で友人は初めてその女性に近づきました。

「ちょっとすいません」

 と、声をかけて女性の前に手を出してカップラーメンを取り、レジに向かおうとしたその時です。

 ふわりとワンピースの裾が捲れ、女性の足が見えました。友人はそれを見て強い恐怖を感じたそうです。なんと女性の足は地面についておらず、ふらふらと揺れていたのです。女性の体はスーッと回るように徐々にこちらに振り返ろうとしていました。そしてあともう少しで女性の顔が見えそうなったその瞬間、友人は気を失ったそうです。目が覚めるとそこはコンビニの休憩室でどうやら倒れた友人に気づいた店員に運ばれたようでした。

 そしてこれは友人がそのコンビニの店員に聞いた話なのですが、今コンビニが建っているその場所は元は一軒家でそこでは1組の夫婦が暮らしていたそうです。しかし、旦那が一方的に離婚を切り出して家を出て行き、それ以降、妻だった女性は日に日にやつれていったそうです。そしてある日、とうとう彼女は首吊り死体となって近隣の住民から発見されたそうです。それから程なくして家は取り壊され、そのコンビニに建て替えられたそうです。


 これでお話は終わりです。いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけていれば幸いです。何せそのためにこの話を書いたのですから。


 ただ、ここまで読んでくださった方々の多くは文章に少なからず違和感を感じたのではないでしょうか。ここからはそれについてお話しさせていただきます。

 ここまで読んでいただければわかっていただけたと思いますが、私は俗に言うところの霊媒体質というのものです。それもかなり強力な。

霊媒体質とは霊に取り憑かれやすい体質のことを言います。それは皆さんもご存知だと思いますが、そう一口に言っても実は幽霊が私に興味を示すのは直接的な時だけではないのです。

 そのことに最初に気づいたのは小学生頃だったと思います。ショッピングモールに買い物に行った時に財布を落としたことがありました。探しに来た道を戻ると一箇所に霊が密集しており、その隙間から当時使っていた財布が見つかりました。

 大学に入ってすぐの頃にはコロナウイルス感染拡大もあってリモートで授業が行われていたのですが、教授側のディスプレイに映っている私に釘付けになっている霊の姿がカメラに映り込んでいました。他にも私のテスト用紙や課題、美術の授業で描いた絵などにも興味を示すこともあり、どうやら幽霊は私の一挙手一投足に関心があるようなのです。


 もちろんこの文章だって例外ではないでしょう。とは言っても別に心配はありません。せいぜいこれを読んでいるあなたの後ろから画面を覗き込むくらいです。心配しなくてもページを閉じればすぐに興味を無くします。尤も振り向くことは推奨しませんが。


 いかがでしょうか。楽しんでいただけていれば幸いです。何せそのためにこの話を書いたのですから。

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