第7話 3月22日 父と娘の話

 私が陽菜と動画配信サービスの恋愛ドラマを見ていると、望月から電話があった。安里が逮捕されたようだ。


 望月は陽菜からUSBメモリを受取った後、内部監査部に不正の証拠を渡して調査を依頼した。すると内部調査部の部長から「殺人事件だろ? 警察にも連絡した方がいい」と言われ、望月は警察に電話したようだ。


 安里の不正融資の調査は内部監査部で継続して行われているが、事件としてはほぼ解決した。警察の調査によって、安里が私に不正融資の告発をやめさせようと反社組織に依頼していたことが分かった。私を交差点で警告しようとしたらしい。

 安里は「宍戸を脅すだけで殺す気はなかった」と言ったそうだが、殺す気はなくても私は死んでしまったわけだ。


 間違って死んでしまった私は複雑な心境ではあるが、死んでしまったものは仕方がない。


 事件は解決したから家族に危険が及ぶこともない。

 これで私の現世にやり残した未練は解決したはずだ。

 私は成仏できると思っていた。でも、違った。


 ――なぜ成仏しない?


 私は事件が解決すれば成仏できると思っていた。だが、そうではないらしい。


 成仏するには別の未練を解決しないのだろう。

 そう思って、家族に感謝を伝えることにした。

 まず、陽菜に「手伝ってくれてありがとう。立派になったね!」と言ってみた。


 ――ダメだった……


 次に、陽菜を通じて妻に感謝の気持ちを伝えてもらった。


 ――やっぱりダメだった……


 ぜんぜん成仏できない私。

 私は成仏するためにいろいろ試した。


 陽菜にお願いして神社にお祓いに行ったが効果はなかった。

 お祓いは悪霊を払うのだから、私は悪霊ではないのか?

 成仏はできなかったものの、良い霊と認められたようで少し嬉しかった。


 得を積めば成仏できるのではと考え、私は宗教本などを日々読み漁っている。が、効果は今のところない。


 ただ、私と娘との関係は少しずつだが良くなっている。

 話し相手のいない私と喋ってくれるようになったし、一緒に出掛けることもある。

 思春期の娘とのコミュニケーションは難しいが、世の父親に比べたら良好な関係なのではないだろうか。


 ――でも、死んでるんだよな……


 最近は成仏しなくてもいいのでは、とさえ思っている。

 とりあえず、私が成仏するための冒険はまだ続きそうだ。



 ***



 父は自分に未練があって成仏できないと考えているようだ。


 でも、成仏できない原因は父にはない。

 父が成仏できないのは私のせいだ……多分。


 父が死ぬ1週間前に、私は「お前なんか死んでしまえ!」と言った。

 本気で父に死んでほしいと思っていたわけではないが、そうではないと信じたい。


 私が葬儀場で「謝らせてほしい」と言った。これは私が心から思ったことだ。

 そうしたら、父が幽霊になってやってきた。


 確証はないが、父が幽霊になった原因は私だと思う。


 そして、父が成仏できない原因も私だ。


 私は幽霊の父に謝っていない。だから、父は成仏しない。

 そういうことだと思う。


 私の都合で父が成仏しないことについて、父には申し訳なく思っている。


 幽霊の父と暮らしてみて分かったことがある。

 話していてもイライラしないし、一緒にいると楽しい。

 生前はなぜあんな態度をとったのだろう。


 きっと私は今の父との生活を楽しんでいる。

 だから、私は父に「ごめんね」と言わないことに決めた。

 父が成仏すると困るから。


 ――大好きだよ、お父さん……



<おわり>



【後書き】

筆者に娘はいませんが、こういう娘がいればいいな、という妄想から書きました。筆者の妄想にお付き合いいただきありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幽霊になったけど成仏のしかたが分かりません @kkkkk_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ