第11話 新たな仲間が波乱を呼ぶ?

 後輩の後藤君が辞めたので、今後について全員で相談する事になった。閉店間際に東雲さんに来てもらい、閉店作業前に俺達3人は話し合う…。



 テーブル席に桜さん1人が座っており、向かい合って俺と東雲さんが隣同士で着席している。


「後藤君が辞めたから人手が欲しいわね。バイト探してる子に心当たりある?」

桜さんが俺達を見ながら言う。


「ありませんね…」

俺は友達がいないんだ。そんな事を知る機会はない。


「片っ端から訊いてみます!」

東雲さんは携帯を素早く操作し始める。


彼女は社交性があるからな。友達はたくさんいそうだ。


「わたしも友達に訊いてみるわ。2人と違って、シフトの融通は利かないけど…」


31歳の桜さんの友達って事は、高校か大学時代になるか? それなら同年代だから、専業主婦かパートしてるんだろうな。


……2人が頑張って探してる中、俺は何もできない。気まずいから何かしてよう。


「俺は閉店作業してます」


「うん、よろしくね」


桜さんはこんな状態の俺にも笑顔を振りまいてくれる。後藤君を責める事もしなかったし、本当に良い人だ。



 閉店作業を終え、後は施錠するだけだ。2人の進捗を訊いてみよう。俺は再び東雲さんの隣に座る。


「閉店作業終わりました」


「お疲れ様、健一君」


「人手はどうなりました…?」


「あたしはダメでした~。ほとんどの子が掛け持ちしてるし、してない子も『掛け持ちはちょっと…』って感じでしたから」


大学を疎かにしてまで、バイトする理由はない。断るのは当然だ。


「わたしは見つかったんだけど…」


そう言う桜さんの表情は曇っている。気になるじゃないか。


「何か問題があるんですか?」


「その人大学の友達なんだけど、当時はかなりの男好きだったの。今は結婚してるから問題ないと思うけど…」


「その人と最後に会ったのはいつなんですか?」

東雲さんが問う。


「結婚式の時よ。27の時に結婚したから、大学の時よりは落ち着いていたわね」


だったら、その人で問題ないよな? 桜さんは何を気にしてるんだ?


「…選り好みする余裕はないし、店の休業日に来てもらうわね。できたら、2人にも来て欲しいんだけど良いかしら?」


「もちろん良いですよ」

年上だけど後輩の女性か。うまくやれるか不安なんだが…。


「あたしもです」


こうして、この日はお開きになった。



 そして、店の休業日の午前中。約束された時間10分前に店内に入ると、テーブル席で桜さんが知らない女性と向かい合って話している。


店の入り口からだと女性の顔は見えないが、髪の長さで女性だとわかる。桜さんと東雲さんが黒髪に対し、女性は明るめの茶髪だ。


2人が俺に気付いて顔を向ける。


「健一君。この人がわたしの友達」


五十嵐いがらし桃子ももこだよ~。よろしく」


「よろしくお願いします…」


五十嵐さんは気さくな雰囲気に見える。


「健君。そんなところに突っ立ってないで、アタシの隣に来なよ」


五十嵐さんが空いてる隣の席をポンポン叩く。俺の名前は桜さんから聴いてるようだ。


「健一君、桃子の隣はダメ。わたしの隣にして」


「さすがに初対面の子にはしないから」


アレってなんだ? 知りたいような知りたくないような…。


「どうだか。あんた、昔の感じに戻ってるじゃん」


桜さん、友達相手だとこんな風に話すのか。新たな一面を知ったな。


「だって、旦那が全然相手してくれないんだもん」


「30代にもなれば、仕事が忙しくなるに決まってるでしょ。相手する余裕なんてないの」


「それはわかるけどさ~」


結局、俺はどうすれば良いんだ? 立ち尽くすしかない…。


「桜。健君が困ってるよ?」


「そうね…。健一君、わたしの隣に来て」


桜さんも空席をポンポン叩いたが、同じ行動でもやる人次第で意味が変わるな。そう思いながら、彼女の隣に座るのだった…。

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