第12話 俺、手を出されちゃうの?

 辞めた後藤君の代わりに、桜さんの友達の五十嵐いがらし 桃子ももこさんが入ってくれるらしい。気さくな人に見えるけど、桜さんはずっと警戒中だ。


一体何が問題なんだ? 俺にはサッパリだぞ…。



 テーブル席に、俺と桜さんが隣同士で座っている。彼女の向かい側に五十嵐さんがいる状況だ。


そして、約束の時間の5分前になった。


「すみません、遅くなりました~」


店の入り口が勢い良く開き、東雲さんが来店する。それに合わせ、全員が彼女のほうを見る。


「桜さん、こちらの方が?」


「五十嵐 桃子。よろしくね」


「はい、こちらこそ」


これで全員挨拶を済ませたな。


「東雲ちゃん、アタシの隣に座って」


「そうさせてもらいます」

彼女は言葉通り座った。


「東雲ちゃんって、健君の彼女だったりする?」


「えっ?」


五十嵐さんの言葉に、俺と東雲さんがハモる。


「あんたがそう言いたくなる気持ちはわかるけど違うわ」


「へぇ~? じゃあ健君ってだよね?」


何だ? 五十嵐さんの俺を見る目付きが変わった?


「桃子。未成年の健一君に手を出すんじゃないわよ!」


手を出す? どういう事だ?


「2人は下ネタOKなタイプ?」

五十嵐さんが俺と東雲さんを見る。


「一応…」

重すぎるのは勘弁だが。


「あたしも同じですね」


「じゃあ遠慮なく言うよ~」


ここまで聴けば、桜さんが警戒してた理由が大体わかるな。


「旦那は忙しすぎてHしてくれないし、パート先に若い男いないんだもん。健君に相手してもらいたいのは当然でしょ?」


話を聴く限り、五十嵐さんはビッチのようだ。ってそのままの意味だったんだな。


「何で悪い予感は当たるのよ…」

頭を抱える桜さん。


「人の性格がそう簡単に変わる訳ないじゃん。にもかかわらず連絡してきたって事は、経験者が欲しいんでしょ?」


五十嵐さんは、接客業か喫茶店で働いた事があるっぽいな。


「…そうよ。わたし1人で何とかできると思ったから。健一君と遊華ちゃんに迷惑をかけないためにね」


「アタシは健君に教えてもらいたいな~」


「あんたと健一君が一緒になるシフトは最低限にするから。絶対!」


今から色々不安になるんだが、本当に大丈夫か…?



 「桜には言ったけど、アタシは掛け持ちしてるからランチタイムだけ出るからね」

五十嵐さんが俺と東雲さんを観て言う。


「わかりました」

それだけでも十分戦力になる。


「はい」


「んじゃ、2人とも連絡先交換しようね」


五十嵐さんの提案に、桜さんは何も言わない。交換の重要性をわかっているからか。


……俺と東雲さんは、無事交換を済ませた。


「桜、早速いろいろ教えてよ」


「わかったわ。健一君と遊華ちゃんはどうする? もう帰って良いけど…」


ここは2人きりにしたほうが良いか。久しぶりの再会で積もる話もあると思うし。


「そうですね、お先に失礼します」


「ではあたしも…」


「2人とも、これからよろしくね~」


五十嵐さんの挨拶に応えた後、俺と東雲さんは店を出た。

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