第6話 夢の中で…

 休憩室で桜さんに、ウエディングドレス姿の写真を見せてもらった俺。彼女は大卒で正社員になった時に今の旦那の晴彦さんと出会い、数年後に結婚したと聴いている。


という事は、この写真は25歳あたりだな。今は31歳なので、6年ほど前の姿になる。6年経とうが桜さんの魅力は変わらない。


しかし、もっと露出した姿を見たいのが本音だ。どう切り出せばいいか…?



 昔に関する話は終わったので、俺達は写真を大切にしまった。


「明日のシフトは…、健一君が早番で遊華ちゃんが遅番だったわね」


「はい」

桜さんは閉店作業をするために来る感じだ。


なんて考えてる場合じゃない! このままだと話すタイミングがなくなる。とりあえず何か言わないと。


「桜さん、結婚前でお気に入りの写真はあったりしますか?」


若い頃のほうが、露出度が高い服を着てる可能性があるはず!


「一応あるけど、友達が一緒に映ってるし…」


「その写真は、どういう時に撮ったんですか?」


「えーと確か…、大学卒業前の旅行ね。女3人で温泉旅行に行ったのよ」


「へぇ~。良いですね、温泉」

どういう写真を撮ったのか、想像が膨らむな。


「健一君も彼女と一緒に行ってみたら? その時になったら、バイトをお休みしても良いからね」


桜さんはかばんを背負い始めた。これ以上は足止めできないな。


「その時がきたら、お願いするかもしれません」

彼女どころか友達すらいないんだぞ。実現性は0に等しい。


これ以降は、店の前で別れの挨拶をしただけだった…。



 ***


「健一君、起きて」


俺の呼ぶ声が聞こえる。誰が呼んでいるんだ? 目を開けてから顔を上げてそのほうを見ると、ウエディング姿の桜さんがいた。写真で見た姿と全く同じだ。


「やっと起きたね、お寝坊さん♪」


「はっ?」

俺はあたりを見渡して、今の状況を分析する。


現在いるのは、バイト先の休憩室だ。俺は机に伏せて寝ていたらしい。よだれが少し机に垂れているからだ。


それにしても、一体どうなっている? 訳が分からなくて頭がパンクしそうだ。


「この店に佐々木がいるはずだ! 絶対に探し出せ!」


店のホールからガラの悪い男の声が聞こえた。佐々木って俺の事?


「健一君、すぐ隠れないと見つかっちゃうわよ!」


桜さんが何でそんな恰好をしているか訊きたいが、それどころじゃないぞ。


「今すぐわたしのスカートの中に入って!」


「えっ?」


ウエディングドレスは丈が長いから、隠れやすいと思うけどさ…。


「いいから。あの人達に見つかったらどうなっちゃうか…」


ヤバい事になりそうなのは、ひしひしと伝わる。


「本当に良いんですね?」


「うん」


「ではお言葉に甘えて…」


俺は桜さんの後ろから入り、脚のそばに移動する。…こんな時でも性欲は抑えられないようだ。見上げて彼女のお尻を観察する。


下着もドレス同様に白い。良いヒップで見惚れそうだ。


「おい女! ここに佐々木は来なかったか?」


扉が勢いよく開いた後、さっきの男が桜さんに問う。


「見てないわ」


「本当だな?」


「本当よ」


桜さん、声を聴くだけでもヤバそうな奴相手に庇ってくれるなんて…。


「逃げ足が速いやつだ。家に逃げたかもな」


そう聴こえた後、扉が強い音を立てて閉まった。この店に用はないと踏んだか?


「…健一君、出て良いわよ」


桜さんの合図を聞き、俺はウエディングドレスから出る。


「桜さん、庇ってくれてありがとうございました」


「良いの。これぐらいは当然の事だから」


緊張の糸がほどけたせいだろうか、さっきの下着姿が頭から離れない。あの男はここに来ないし、俺と桜さんの2人きりだ。今なら…。


「桜さん。スカートの中に隠れてる時、下着を見ちゃいました」


「そうなの? 恥ずかしいわ…」


「良いお尻で我慢するのに苦労しました。今は我慢しなくて良いですよね?」


俺はドレスの上から、彼女の胸をモミモミする。


「仕方ないわね~、今回だけよ♡」


桜さんの許可をもらってすぐ、うるさい音が俺の耳を支配する…。


***



 「何なんだよ、良いところだったのに…」


朝。俺は自室のベッドで、スマホのアラームを止める。


さっきまで見ていたのはだ。もうちょっと見ることができたら…。


昨日見たウエディングドレス姿をきっかけに、こんなくだらないエロストーリーが無意識に生まれたって事か。墓場に持って行きたいレベルの黒歴史だ。


もし桜さんの水着姿を見たら、俺はどうなってしまうんだ? そんな事を思いつつ、夢の続きを妄想してのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る