第二十五話「ずっと昔の知識から」

翌日の放課後、私はイルディオのアイテムショップに足を運んでいた。

「一人とは珍しいですね。しかもそんな大荷物で。どうしました?」

「手伝って欲しいことがあるんです」

私が持ってきたのは直径六センチの丸太を八本程と板が一枚。先程材木屋で購入したものだ。

「これを使って作りたいものがありまして」

「見たところスキットルでも作るつもりかな」

「はい。でもイルディオさんが想像しているのとは別のものです」

私は昨晩部屋で描いた設計図とルールを書いた紙を見せる。彼はそれを隅々まで見た後、こんな感想を述べた。

「モルックか。初めて聞く遊びだけどルールが単純でなおかつ楽しそうだね」

「はい。昔やったことがあってそれで」

昔、私にとっては前世での話。大学生の時サークルメンバーでキャンプへ行った際にモルックをした。ルールが明確でやってみると結構面白い。私のように運動が得意じゃなくても楽しめるスポーツだ。

私はそれをこの世界で再現しようとしている。

イルディオさんに協力を仰いだのは他でもない、彼がこの時代にまだ無いはずの手回しオルゴールを製作したからだ。モルックと共通するのは木材を使用していることくらいだけれど、少なくとも木材を加工するのに必要な道具は所持していると判断した。

「じゃあ早速――」

製作に取りかかりましょうと言おうとした瞬間、背後から勢い良く扉の開かれる音がした。

振り向くとティーナが息を切らして立っている。

「ティーナさん、どうして――」

「探した、わよ。ここに、いたのねぇ……」

途切れ途切れになりつつも言葉を紡ぐ彼女。私はイルディオさんに水を持ってくるよう頼んだ。

「ちょっとエリナ、大丈夫?」

近づいた瞬間、エリナは扉から離れ私にもたれかかってきた。そのまま彼女はややくぐもった声で言う。

「ユイカ、最近すぐどっか行くから、アタシいろいろと不安で……」

ああそうだ。私は大事なことを忘れていた。自然散策のことに夢中になるあまり、肝心の親友をほったらかしにしてしまったんだ。

「ごめんね」

「どんだけ心配したと思ってるのよ全く!」

「本当にごめん。ただね、悪気は無かったんだ。野外遊びの準備に追われてて」

「わかってる。アツミから聞いた」

「そう……」

アツミから話を聞いたということは、私とリルカの間にあった件についても知っているのだろうか。

その答えはすぐに明らかとなった。

「あのリルカって子に何を言われたかまでは知らないけど、一人で全部背負わないでよ。アタシ達親友なんだからこれくらい頼りなさいっての」

「……わかった」

「言うまでの間が気になるけどまぁいいわ。それで、何を手伝えば良いのかしら?」

「えっとね、これを作るんだけど――」

先程イルディオさんにも見せた設計図をエリナに渡す。

「なるほどねぇ。っていうかイルディオは何してるのかしら。水持ってくるだけで時間かかり過ぎじゃない?」

「確かに」

「失礼な。会話を邪魔しちゃ悪いと思ってタイミングを見計らっていたんだよ」

その言葉と共にイルディオさんが店の奥から出て来る。

「あら、意外と気が利くのね」

「『意外と』は余計だよ」

「なんかすみません……」

いろいろと申し訳なくなった私は咄嗟に謝った。

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