第二十四話「小さな火花」
「はぁ……」
職員室から教室に戻る途中、偶然リルカに出くわした。彼女は目が合うなり言ってくる。
「あらカルロさん、教室まで一緒に参りませんこと?」
「構いませんわ、リルカ様」
正直エリナとの確執がある以上リルカと必要以上に関わるのは避けたい。けれども身分が上の者を無視することは常識的に許されないので承諾した。
横並びになって歩く。先に私から話を切り出した。
「ティーナさんのお誘い、リルカ様が断ったそうですね」
「当たり前でしょう?たとえリリアが許してもわたくしは許しませんわ」
「そうですか……」
やはり一筋縄ではいかないらしい。私は唇を噛み締める。
「あなたも大変ね。ティーナさんに振り回されて」
「そんなことありませんわ」
「嘘おっしゃい」
否定するも一蹴されてしまう。
「今度の野外遊びの件だって、あの子がいるから難航しているのではなくて?」
「そっ、それは……否定しません」
「あら、否定しないのね」
「そりゃあ、貴族と庶民では感覚が違いますし」
「そうね」
リルカは言葉を並べていく。
「わたくし達貴族に合わせればあなたからあの子が遠のく。かといってあの子に合わせたらあなたの貴族からの印象は悪くなる。どちらにせよあなたは後悔するでしょうね」
「……ご忠告ありがとうございます」
私はお礼だけ口にしておいた。対するリルカはやや不満げな顔をする。
「あら、他に言うこと無いの?」
彼女の上から目線の言葉に苛立った私は低い声で言った。
「私を甘く見ないでください。自然散策当日、あなたを驚かせてみせますよ」
「えぇ、期待してますわ」
彼女は不敵な笑みを浮かべ、早足で去っていった。
私は頭を抱える。
やっちゃった。リルカの挑発に乗っかってしまった。彼女とエリナを和解させたいのに私が宿敵みたいになってどうする。
何はともあれ、これで失敗はできなくなった。
本当にどうしたら良いんだろう。
「はぁぁ……」
放課後、私は中庭のベンチで深い溜め息をついていた。
「あれっ?ユイカちゃん」
私のことをそう呼ぶのは一人しか知らない。私は相手の顔を見上げる。
「アツミ……」
リリア、もといアツミは心配そうな顔で私を見ている。
「大丈夫?元気無さそうだけど」
「野外遊びが浮かばないんだよぉ……」
「あー、なんかリルカが言ってたなぁ。『カルロさんに悪いことしたかも』って反省してた」
「そっか……」
おそらく彼女はリルカから話を聞いて私の様子を見に来たのだろう。
私は再度リルカに苛立つ。反省する位なら直接謝りに来て欲しい。そう思ったけれど口には出さないでおく。どうせなら自然散策後に直接言って貰いたいし。
アツミは口元に手を当てながら言う。
「うーん、グループのみんなでできる野外遊びを考えるのって難しいよね」
「そうなの。読書はエリナに怒られそうだし、かといって激しいスポーツ系はファルナ様がついていけなさそうだし……」
「なるほどね。だったらさ」
リリアは良くない内緒話をするように言った。
「奥の手使っちゃおうよ」
「えっ?」
「私達にはあるじゃない。他のみんなが持ってない特別な知識がさ」
どういうことだろうか――あ。
ワンテンポ遅れてその意図に気づいた私は声にならない叫びと共に膝を叩いた。
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