第7話 【オーガ】変異種に会うまで30体 2
リスナーさんに名前がついて嬉しいと一言言えば良いだけなのに、相変わらず竜輝さんは言葉選びが気持ち悪い。
『あかん』
『怖い怖い』
『魔物に名前を付けるのって呪いの儀式だったんか』
『もしかして俺ら変な儀式に参加させられていない』
『これリンドヴルムって呼んだ方が良いやつ?』
『魔物に名前をつけるのってこんなに重いんか』
『リンドヴルムだから』
『なんでも重くするヤンデレ竜』
コメント欄もちょっとしたカオスだ。これからオーガと戦うのにそんな空気など微塵もない。まずは早くこの話を終わらせなきゃ。
「そんな事はないですよ。人と同じです。竜輝さんも変な事を言わないで下さい! リスナーさんへ名前で呼んで下さいねってお願いすれば良いんです」
「真白が名付けた生き物はこの世界で僕だけだと言うのはとても重要で」
「はないです! 大事なのは竜輝さんが竜輝と呼ばれて嬉しいかどうかですよ。ですのでリスナーのみなさん。竜輝さんの事は出来れば竜輝さんと呼んで下さい。名前の話は以上です」
無理やり結論付けるとカメラへ向かって言う。
竜輝さんはまだ何か言いたいのか、少し寂しげな表情をしているがここで折れてはいけない。いつオーガが来るかわからない状況だ。正直こんな話をしている場合ではない。
『りょ』
『竜輝了解』
『テンション高すぎて飼い主に怒られる』
『名前が気に入ったどころではない』
『言いたくて仕方がなかったんだな』
『僕の名前見て!飼い主に貰ったの!』
『ちょっと可愛い』
『僕だけ!』
『僕だけは後にも先にも自分以外には名前をつけさせないってことだから可愛くない』
『あっ』
『ひぃっ』
『アイビー…』
最後のは見なかったことにしよう。
「リスナーは察しが良いですね。ふふっ。真白が名前をつけるのは、僕が最初で最後です。よろしくお願いしますね」
これも聞かなかったことにしよう。と思っていたのに竜輝さんの言葉はリスナーさん達に拾われてしまったようだ。コメント欄に『アイビー』がたくさん流れた。
余計な事は言わないで欲しいな。そもそも竜輝さん以外に名前つけることなんてきっとないし、わざわざ言う必要はない。
『察したくない』
『よろしくもしたくない』
『忘れた頃にアイビーの魔物って思い出させるのやめて』
『アイビーなきゃ可愛い竜なのにな』
『可愛いかはわからんが、悪い竜ではない』
本当に。竜輝さんは色々と勿体無い。これさえなければハイスペックなイケメンとは思ってはいけない。……ってそうじゃない。この緩い空気にのまれそうになるが、ここは浅草ダンジョン。早く討伐を始めよう。
オーガの気配をとらえられるように小さく深呼吸をしてから再び集中する。
「竜輝さん、そろそろ行きますよ。今日はオーガ討伐なんですよ」
「はい」
「そんな余裕の表情をしてますが私にとっては……ん? って何か来る?」
私達以外の気配を近くに感じた。そしてそれは私達の方に向かって来ているみたいだ。
気配から何かはわからないが、ここはオーガが出没する地下四階。それにオーガは今まで戦っていた魔物よりも凶暴だからか、転移地点の方にも来やすい。となると導かれる魔物はやっぱりオーガだ。
「オーガかもしれないですね」
竜輝さんに聞こえるように呟くと、炎を出す準備をしてそのまま気配の方向を見る。
するとすぐに私の視界に青い色が入る。青鬼か?
青鬼は竜輝さんに任せなきゃ。そう思った瞬間、青色のまわりが光った。光はすぐに消え、目の前の青は気配と共に消えていた。
「何もいなかったですね」
竜輝さんがカメラの方向を見ながら言った。流石に今の台詞は無理がある。オーガに警戒しながらもコメント欄を見た。
『何もなかった』
『俺は何も見ていない』
『私も』
『ワイも』
『何かあったの?』
これはどう反応すべきかな。とりあえず、緊張感が途切れそうになるし、この流れは良くない。
「配信を始めましょうか。今日はオーガ討伐三十体。頑張ります」
このまま青鬼しか出なかったらどうしよう。そう思いながらも竜輝さんと共にダンジョンの奥へと向かった。
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