2.浅草ダンジョン(地下四階)

第6話 【オーガ】変異種に会うまで30体 1

 私達のダンジョン探索が問題なく進んでいるからか、今日から柳井先生達は魔衛庁から遠隔で私達のサポートをすることになった。なので今は私と竜輝さんの二人で浅草ダンジョンの入室許可を待っている。


 事前に聞いた話だと入室許可が下りたら、私達の近くに浮いているドローンから先生の声が聞こえるらしい。

 先生の声が聞こえたら”はい”と返事をすれば良いんだよね。最初だからかソワソワする。


「真白」


 呼ばれたので、竜輝さんの方向を見ると竜輝さんがふわりと笑いながら口を開いた。


「入室確認が取れるまで、配信の最終確認をしますか」

「は、はい」


 緊張しているのがバレバレなんだろうな。竜輝さんはポケットからスマホを取り出すとそのまま操作し、私にスマホを見せた。


【オーガ】変異種に会うまで30体

 概要欄:変異種と青鬼はペットが倒します。

 ※この配信は魔衛庁の許可を得ております。


 青鬼と変異種以外を三十体討伐するんだよな。やるしかないとは言え。緊張するな。リスナーさんの反応を見てみよう。


『泣いた青鬼』

『もうオーガか』

『時の流れは速いな。少し前までゴブリンだったのに』

『実はまだ一週間』

『本当に少し前』

『時よりも真白ちゃんの成長が早い』


 リスナーさん達も結構のんびりしているな。オーガだよ。もうオーガ。

 と言ったところでどうにかなる訳ではないし、なんで一番本人が緊張しているんだろうな。


「私だけ焦っているみたいですね」

「オーガは真白と同格ですし、いつも通りで問題ないですよ」

「オーガと同格。なんですよね」

「ええ。緑鬼に関しては真白の方が格上ですよ」


 そう言われても。急に強くなったからミノタウロスの時と同じで実感がわかない。


「羊川。許可が取れた。ダンジョンに入っても問題ないよ」


 ドローンから先生の声が聞こえた。急いでドローンの方を見る。


「先生。ありがとうございます」

「気にするな。私の仕事だ。君はオーガ討伐を頑張ってくれ。同格かもしれないが、君はまだ経験が浅いのも確かだ。気をつけてくれ」

「はい!」


 ドローンに一礼してから竜輝さんを見る。竜輝さんは私の視線に気付くとすぐにスマホをポケットにしまい、私に手を差し出す。


「真白、そろそろ行きましょう」

「はい」


 差し出された竜輝さんの手を繋ぐと、私達はダンジョンの転移ポイントへと向かう。いつもなら私が移動するが、今日は違う。

 私はまだ地下四階に行ったことがないから竜輝さんに連れて行っても貰う必要がある。


「僕の手をしっかり握っていて下さいね」

「はい」


 握っている手に力を込めてから返事をすると、すぐにいつもの浮遊感が出てきた。落ち着くと目の前には見慣れない風景が広がっている。浅草ダンジョン地下四階のようだ。


 景色が全然違うな。木々は生えていなく、赤黒い岩石で覆われている不気味な場所。

 見慣れない場所に今さらだが心臓がバクバク言い始める。


 竜輝さんの手を離すと周りを見渡し、いつ襲ってきても戦えるように集中する。

 私は片手で戦える程強くはないし、何かある前に竜輝さんが魔物を討伐出来るから手を繋いでいなくても問題ないそうだ。人は討伐出来ない。今さらながら重い言葉だ。


「真白。そろそろ配信を始めますよ」

「はい」

「そんなに固くならなくても大丈夫ですよ。ここならオーガも来ません。それに万が一配信前に来たら僕が倒しますから」


 そう言いながら竜輝さんがスマホを取り出す。相変わらず緊張感がないな。

 竜輝さんはそう言っているが、周りの気配を気にしながらスマホを見る。


 画面には『羊川真白さんを待っています』と言う画面と『待機』のコメントで埋まっていた。もう時間だ。


「始めますね」

「はい」


 返事をすると竜輝さんが配信スタートのボタンを押す。待機画面が暗転するとすぐにカメラの映像が映り出された。配信スタートだ。


「今日もありがとうございます。羊川真白です。今日もよろしくお願いします」

「皆さん。こんにちは。羊川竜輝です。今日もよろしくお願いします」


『あれ、名前?』

『たつき?』


 竜輝さんの自己紹介で気付いたリスナーさん達がコメントをする。相変わらず竜輝さんは前触れがないな。

 ただコミュ限で話していたからか意外と『ああ』とか『やっぱり』と言うコメントが多かった。


「僕に名前がなかったので、真白から頂きました。竜に輝くと書いてたつきと言います。今日から僕の事は竜輝と呼んで下さいね」


 どことなく誇らしげだ。ん? リスナーさんに呼んで欲しいんだ。どうでも良いって言っていたから、なんか意外。


『どや竜』

『最初はどうでも良さそうだったのに』

『真白ちゃんから貰ったからな』

『貰った瞬間手のひら返し』


「ふふっ。後、僕のことを竜輝と呼ぶときは僕が真白に名付けられた唯一の真白のペットと言うことを思い出して下さいね」


 ん? なんか竜輝さんが不穏なこと言っていない? 名前の紹介だよね……?

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