第39話 真白と恋

 私に会いに来た。衝撃的な言葉に私はリンドヴルムさんの言葉を待つ。


「はい。真白は僕と考えが似ていましたからね」

「リンドヴルムさんと? 私が?」


 全く似ていないと思うけど。そのままリンドヴルムさんの言葉を待っているとリンドヴルムさんがゆっくりと口を開いた。


「似ていますよ。僕が魔物に襲われている間、真白は増えた魔物を間引いてくれましたから」


 ああ。なんだ。私が魔物の討伐をしていたからか。


「それを言ったら他の冒険者もリンドヴルムさんと同じですよ」

「そうですが、そもそも日本橋に来るのはここ半年で真白だけでしたし、僕が頼れるのは真白だけでしたよ」


 確かに同期の友達は他のダンジョンに行っていたし、専門の研修もまだしていなかった。必然的に日本橋ダンジョンは私の貸し切り状態だった。偶然だけど、必然と言う言葉を否定出来ない状況だった。


「あの魔物の力が弱まり、漸く動けるようになったのであなたにかけたんです。真白なら何とかしてくれるって。僕にとって真白は最後の希望だったんですよ」

「命の恩人みたいに思われているみたいですが、実際私はリンドヴルムさんを助けたつもりはないですからね。そう良く思われるのは正直複雑です」


 寧ろ討伐しようとしていた。結果としてリンドヴルムさんは助けられた事は良かったと思っている。だけどだからと言って感謝されるのは後ろめたさもある。


「知っていますよ。それでも今の真白なら僕が同じ状態になったら助けてくれます」


 ふわりと笑った。本当にそう言い切るのがずるい。関わりを持ってしまった以上私はリンドヴルムさんを見捨てる事は出来ない。

 ただその言葉に素直にはいというのも少しムカつくのも確かだ。


「そんなのそんな状況にならないと知りませんよ」


 視線をそらして言うとリンドヴルムさんは小さく笑った。


「ふふっ。だから少し意地悪なんです」

「そうはっきり言うからですよ。私の事を知っているって、何かリンドヴルムさんの言った通りになっているみたいで嫌です」

「でしたら僕に命じて下さい。僕に余計な事を言うなって。僕は伝えるのは苦手なのでどうやら言い過ぎてしまうみたいですし」


 さらっと言わないで欲しい。確かにリンドヴルムさんに振り回されるのは嫌だ。だけどだからといって命令して自分の思い通りにするにはもっと嫌だ。


「言論統制しているみたいでそれは嫌です」

「そうですか? 僕は気にしませんよ。元々言葉を持っていなかったですし、それに真白が一緒にいてくれれば、だいたいの事がどうでも良いです」


 一緒にいてくれれば良い。凄く単純だけど重い言葉だ。


「重すぎますよ」

「そうですか? 僕にとってはそれが全てですからね。ですがこの生活を続けていく以上は真白も強くなる必要はありますので、出来ればダンジョン配信は計画させて下さいね」

「それはわかりますが。私も考えますからね。……ん? 気にするのはダンジョン配信だけなんですね。リンドヴルムさんはなんでダンジョン配信に拘っているんですか?」


 リンドヴルムさんは人の事を知っているし。識別阻害があれば普通の人のように生活が出来そうだ。


「拘っているも何も僕が人の世界で生きていくためには配信以外考えられないですからね」

「そうですが、識別阻害があったので」

「それは最終手段です。リンドヴルムとして人に受け入れて貰うのが一番ですからね。真白を通してダンジョン関連の事件は大方把握していますからね。魔物に対してよく思っていない人もいる。そんな場所で僕が受け入れられるには他の魔物を倒すのが一番ですよ。それにお金も稼げる。丁度良い職業です」

「凄くあっさり言っていますが、リンドヴルムさんは嫌だとは思わないんですか?」


 人のために魔物を討伐する。キングゴブリンを討伐する時もゴーシールシャを討伐する時も特に気にしていないようだったが、実際はどうなんだろうな。


「思いませんよ。寧ろ他の魔物を討伐したら真白といられる。単純でわかりやすいのでとても良いですね」

「単純って」

「ふふっ。僕なりの恋の駆け引きです」

「それもわからないです。リンドヴルムさんは恋をしたのに、ペットって言うし、どこかそっけないです。なのに一緒が良いって、私はあなたの気持ちがわからないです」


 リンドヴルムさんはどこか壁がある。好きだと言っているのに、どこか私に対して線を引いているように感じる。

 一緒にパフェを食べに行く外出。危ないから手を繋ぐ。そんな事を言うからわからなくなるんだ。


「僕も本当はわからないんです。けれど僕は真白の質問に恋と答えた。だから恋なんです」

「恋と答えた?」

「はい。僕はあなたの命令で恋と答えました。それに真白の記憶を通して知った恋は自分勝手な一方的な気持ちです。僕のこの気持ちにぴったりな言葉です」


 自分勝手な一方的な気持ち。私の前世の話かな。私の前世は何しているんだ。断片を聞く限り私とは考えが異なる人達なんだろうな。


「他の人の前ではそんな事を絶対に言わないで下さいよ」

「言いませんよ。恋と言ったら付け入る隙を見せてしまいますからね。僕は真白の唯一の可愛いペット。真白は恋をしないからペット以外寄せ付けない。完璧です」


 完璧? どこがだ。私には到底理解出来ないが、なんとなく言っている事はわかる気がした。一緒にいてくれれば良い。それだけなんだろうな。


「リンドヴルムさんは私に恋をして欲しいとは思わないんですか?」

「恋をして真白が変わってしまうのは怖いです」

「私が変わる?」

「はい。真白がくれる気持ちはどんなものでも嬉しいですが、恋は生物を狂わして違うものにしてしまうものでもありますからね。恋は良くないんですよ。真白は恋をしないので安心です」


 今の私が良い。だから恋をしないで、このまま一緒に暮らしたい。その言葉がしっくりと来た。いつもの私と記憶のようにパフェを食べたい。リンドヴルムさんにとって大切なのは今の私。

 

 ただリンドヴルムさんはそれが口説き言葉になることを知らない。リンドヴルムさんのその純粋な言葉は意図せずに私の心を揺さぶっていく。それは恋をしていると言っているが、本当は恋を知らないからだ。本当に罪な男だ。


「私は恋をしませんよ」


 そんな男を好きになると苦しくなるのは自分だ。自分に言い聞かせるようにリンドヴルムさんに言う。

 その言葉にリンドヴルムさんは満足したのか嬉しそうに笑う。


「はい。僕はあなたの可愛いペットとしてずーっと一緒にいますね」


 リンドヴルムさんは格好良くて優しくて、仕事も出来る。私に都合の良い。酷い男だ。



***


第一章をお読み頂きありがとうございます。

次回からは二章になります。


最初の数話は一章の補足と序章の話になりますので、本格的に始まるまで間が空いてしまいますが、引き続きよろしくお願いします。


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よろしくお願いします。

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