第38話 真白ともやもや

 本当にパフェを食べるだけだった。リンドヴルムさんとパフェを食べてそのまま帰宅した。

 別にリンドヴルムさんが何かあって欲しかったと期待していたわけではない。だけどここまで何もないと複雑だ。何も起こらないで欲しいと思っているのに、実際何もないとないでなんかモヤモヤする。私は意外と面倒な人間だったんだな。


 こんな気持ちは初めてで、私はこの気持ちをどう消化すれば良いかわからない。

 だからかリンドヴルムさんと顔を合わせるのも気まずくて、家に帰るとすぐにコメントの確認と理由をつけて、配信部屋にこもった。


 そんな行動をする自分が最低だ。とは思うけど、どうすれば良いかわからない。

 せめてリンドヴルムさんに伝えた通りにコメントの確認をしようとするが、後ろめたさや色々な気持ちが頭の中でぐるぐるしていて、何も入らなかった。

 それでも頭の中に無理矢理入れようと同じ場面を繰り返し見ているとノックの音が聞こえた。


「はい」


 扉へ向かって声をかけるとすぐに扉が開き、カップを二個持ったリンドヴルムさんが視界に入る。

 リンドヴルムさんはそのまま部屋に入るとキーボードの横にカップを一つ置く。するとすぐにリンゴの甘い香りがした。

 アップルティーを持ってきてくれたんだ。


「チェックは順調ですか」

「えーっと……」


 優しい言葉に更にいたたまれなくなる。リンドヴルムさんと顔を合わせたくなかったから逃げていたとは流石に言えない。


「ふふっ、ずっと根を詰めていては疲れてしますよ。ほら。休憩しましょう」


 順調じゃないと悟ったのか、リンドヴルムさんが私に笑いかける。その優しさが凄く気まずい。やっぱり一緒にいるのはきつい。なんとか一人になれないかと理由を探していくが、さりげなく阻止されそうな気がする。それでもなんとか言うしかない。


「そんな事ないですよ。昨日は休みでしたし、今日もサボるのは良くないです」

「そうですか? 真白はしっかり戦っていますよ。当初の予定よりもかなり順調です。寧ろかなりのハイペースですし、本当は配信以外は休んだ方が良いんですよ」

「いつもよりも寝ていますので、問題ないです」

「ですが、ほら。全然動画が進んでいないですよ。疲れで集中が出来ていないんじゃないですか?」


 思っていた事を突かれたせいか、返す言葉が思い浮かばない。それでもそっと視線をそらしながら考える。

 ……思いつかない。すると私が反論できないわかったのか、リンドヴルムさんが持っていたカップを机の上に置く。そして机の上に置いてあった私のカップを持ち上げた。


「ほら。休憩です」

「は、い」


 諦めてコップを受け取るとリンドヴルムさんが小さく笑った。


「真白は頑張り屋さんですからね」

「そんな事ないですよ」

「ありますよ。普通、こんな状況になったら僕に頼りきりになりますからね」


 ゴーシールシャを討伐して貰ったし、動画の編集もリンドヴルムさんがほぼやっている。私はリンドヴルムさんにおんぶにだっこだ。これで頼っていないと思うのはどれだけおおらかなんだろうな。

 だからかリンドヴルムさんのその言葉が心に突き刺さる。


「リンドヴルムさんに沢山頼っていますよ」

「僕にミノタウロスやケンタウロスも討伐させますよ。それなのに真白は自分で出来る事は自分で頑張ろうとしますからね。ほら、自分でも討伐出来るようにって」


 当たり前じゃないのかな? それにそんなにリンドヴルムさんを酷使させるのは良くない。リンドヴルムさんの意図がわからなくて続く言葉を待つ。


「真白は思ったよりも少し意地悪ですが、僕の事をちゃんと見てくれますからね。ふふっ。日本橋で真白に会えて良かったです」


 意地悪なのはリンドヴルムさんが振り回すからだ。私だって別に冷たい言い方をした訳ではない。

 それよりも会えて良かった? リンドヴルムさんは運命のようなトーンで言っているが、ただの偶然だ。


「あの日はあそこにいたのは偶然ですよ」


 勘違いさせないように伝えるが、リンドヴルムさんは相変わらず柔らかい表情のままだった。


「必然ですよ。僕は真白に会いに行こうとしてましたから」

「え?」


 私に会いに来た? どういうことだ? そのままリンドヴルムさんを見た。

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