第37話 魔物とフレンチトースト
「つきましたね」
平日の朝一からパフェを食べる人は少ない。しかも開店直後。なのでお店には数組入っていたが、並んでいる人は誰もいなかった。
リンドヴルムさんは私の手を引いたまま店員さんに二名と伝えるとお店の人が奥の席を案内した。
そのまま言われた席へと向かう。向かっている途中に店員さんや他のお客さん達が私達に対して何も言うことはなかった。
私達がそこまで有名じゃないのか、それともリンドヴルムさんの識別阻害の影響か。わからないな。
「識別阻害のおかげですよ」
席に座るとリンドヴルムさんがと自信満々で言った。相変わらずその自信はどこから出てくるんだろうな。
「自惚れすぎです」
確かにチャンネル登録者数は八百万人になっているけど、結局はネットの世界だ。登録数が凄いのは確かかもしれないけど、そんなに気にするほどではないと思う。
「ふふっ。そんな事はないですよ。人の眷属とは言え、竜がダンジョンの外に出ているんですよ」
「ですよね」
そう言えばそうだった。リンドヴルムさんを悪く思う人もいる。
魔衛庁の時のことを思い出しながら、さりげなくお店の中を見渡す。やっぱり私達のことを特に気にする様子はない。少し安心しながらリンドヴルムさんへ視線を戻す。
「識別阻害で僕の事を気にする人はいませんので、周りのことは気にせず、美味しいものを食べましょうね。真白は何を食べますか?」
ふわりと笑いながらリンドヴルムさんがメニューを私に向けて言った。
「あっ。私は決まっています。このフレンチトーストです」
そう言いながら季節限定と書かれているシャインマスカットのフレンチトーストを指さした。
ここ数日リンドヴルムさんと一緒にお店のホームページを見ていたので、その時から気になっていた。
「でしたら、後は僕ですね」
リンドヴルムさんはその言うとメニューを持ち読み始める。悩んでいる姿も格好良い。思わず見とれそうになる。
って良くない。無だ。無。別の事を考えよう。ん? リンドヴルムさんは決まっていなかったんだ。昨日は無花果の話をしていたからてっきり無花果のパフェでも頼むのかと思っていた。
「すぐに決めますね」
ぼんやりとリンドヴルムさんを見ていると気付いたのか、リンドヴルムさんが私を見ながら困ったように笑った。
「い、いえ、急いでいないですよ。ゆっくり決めて下さい」
特に急いでいないし、折角来たんだから好きなのを食べた方が良い。見ていたら邪魔になっちゃうだろうし、リンドヴルムさんを見ないように視線をそらすとリンドヴルムさんの声が聞こえた。
「大体は決まっているんですが、まだ決められなくて……。無花果のパフェとシャインマスカットのフレンチトーストで迷っているんです」
「シャインマスカットのフレンチトースト? でしたら少し食べませんか?」
「え? 真白のを?」
一口どうですか? のノリだったけど、そう前のめりに聞かれたら、言って良かったのか迷う。
「あっ、全部はあげられませんが味見程度でしたら」
「充分です! お言葉に甘えて、少し頂きますね」
確認するように伝えるとリンドヴルムさんは明るい表情で答える。そしてそのまま店員さんを呼び、注文した。
「後、取り皿をお願いします」
リンドヴルムさんは最後にそう付け加えた。間接キスになっちゃうからな。相変わらずガードが高い。
あっ。そうか。そうやって間接キスを狙うパターンもあるのか。気を付けないと。
***
少ししてからお店の方がフレンチトーストとパフェと二つお皿を持ってきてくれた。あっ。お皿は一つって言えば良かったな。
「お皿の数を次からは伝えないといけませんね」
「あっていますよ。真白も無花果のパフェを食べて下さいね」
「え? 私の事は気にしないで良いですよ」
「僕が食べて欲しいんです。真白と一緒に美味しいって話をしたいので」
そう息を吐くように口説くのはやめて欲しい。本当にリンドヴルムさんの気持ちがよくわからない。ガードが高いくせに私をドキドキさせる事ばかりいってくる。
気にしないように見ているとリンドヴルムさんはスマホを取り出し机の上のパフェ達に向けてスマホを構える。そう言えば写真が撮るのが好きと言うよりもつぶったーに投稿するネタと言っていた。相変わらずリスナーさんへのサービスに余念がない。
「つぶったーにあげるんですか?」
「はい。家に帰ってからあげますね」
カシャとシャッター音がすると少しスマホの操作してからすぐにしまった。
「お待たせしました」
それからお皿を取り、パフェを取り分ける。
私もフレンチトーストをお皿に取り分けリンドヴルムさんへ渡す。そして手を合わせていただきますと言ってからフォークとナイフを持つ。
一口サイズにフレンチトーストを切ってクリームとシャインマスカットをのせてプチフレンチトーストの完成だ。フォークでさし、そのまま口に運ぶ。
「おいひい」
フレンチトーストはふわふわで口の中に入れた瞬間、溶けてしまうようだった。
フレンチトーストの甘さは少し控えめだがクリームとシャインマスカットがほどよく甘さを主張していてバランスが取れている。
「ええ。美味しいですね」
リンドヴルムさんを見ると、リンドヴルムさんもフレンチトーストを食べていた。気に入ったみたいで良かった。
この笑顔を見ると色々あったが、今日来て良かったと思ってしまうので、私はやっぱりこの顔とリンドヴルムさんに甘いようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます