第36話 魔物と体質

 凄く楽しそうだった。私の手を繋いで。ってなんで私はリンドヴルムさんと手を繋いでいるんだろう? 私に触れて良いって言ったから?

 真意を探るようにリンドヴルムさんを見るととても嬉しそうな表情をしている。もしかして私と手を繋いでいるから? いや、違うな。これはパフェの話をしているときの表情だな。

 パフェが楽しみなんだろうな。考えてみると心なしかいつもよりも速く歩いている気がする。ならきっと私を速く歩かせるために手を繋いでいるんだろう。ならしょうがないか。意図がわかると少しすっきりした。


 再びリンドヴルムさんと繋がれた手を見る。私の手をすっぽりと覆ってしまうくらいに大きい。骨ばっていて私とは違うゴツゴツした男の人の手だ。


「僕の手、おかしいですか?」

「えっ」


 リンドヴルムさんの手を見ていると突然声が聞こえた。見上げると困ったように笑いながら続けた。


「人の手に模してはいると思うのですが、真白の手と全く違いますからね」


 どうやら私と手を繋ぐことはおかしくないらしい。本当にこの竜は何を考えているかわからない。

 そんなリンドヴルムさんに見惚れていたなんて言えなくて、何とか言葉を考えていると、リンドヴルムさんの手が異様に冷たかった事に気付いた。そうだ。


「ち、違いますよ。ほら、手が冷たかったので、どうされましたか?」


 手は握っているうちに暖かくなったが、リンドヴルムさんの手は最初とても冷たかった。本人が何も言わないので、楽しみにしている所を水を差しちゃうし、私は気にしないようにしていたが、もう言ってしまったし仕方ない。

 もし体調が悪かったら、命令をしてでも別の日にちを変えよう。


「あぁ。それは体質です」

「体質?」

「人の形を模してはいますが、僕は竜ですからね。人よりも体温が低いみたいです」


 体調が悪いとかではなかったなら良かった。

 そっか。体質か。昨日はドキドキしてそれどころじゃなかったが、よくよく考えるとリンドヴルムさんの手は冷たかったかもしれない。

 中身だけじゃなく外も少し違かったんだ。


「そうでしたか」

「はい。ですので気にしないで下さいね」

「特に気にしては……ただ冷たいから手を離そうとしただけです」


 なんかここで認めると負けた気がする。リンドヴルムさん相手には素直になれなくて、誤魔化すようにそっと視線を外して地面を見た。


「それはダメですよ」


 いつもよりも低い声だった。どこかおどろおどろしく、背筋が凍るような声色に驚いてすぐにリンドヴルムさんへ視線を移す。

 リンドヴルムさんは笑っているけど、笑っていなかった。と言うか空気も心なしか冷たい気がする。もしかしてやばいスイッチを押しちゃった?


「僕は真白がどこかへ行かないように手を繋いでいるんですよ」


 私と視線があうとその表情のまま続ける。どこかにってどういうことだ? もしかしてこれダンジョンフラグ?


「どこか、ですか?」


 なるべく刺激しないように恐る恐るリンドヴルムさんへ話す。

 するとリンドヴルムさんから笑顔は消え、とても真剣な表情で私を見つめる。 


「ええ。人の世界は通り魔や連れ去りなどがあります。なのにうっかり人を傷つけたら真白の命令に背くことになりますからね。僕の手は冷たいですが、この世界は危ないので我慢して下さいね」


 そっか。犯罪に巻き込まれないようにか。

 ってよく考えると子供の手を引く母親じゃん。だからこの竜は。本当に私のドキドキを残念な方向で裏切っていく。


「リンドヴルムさん。もしかして私の事を子供だと思っていませんか?」

「子供? 真白は真白ですよ。僕の大切なご主人様です」


 真剣な表情がきょとんとした顔になる。確かに私は私だけど。……きっと伝わっていないな。それに危ないからって、子供扱いされているみたいであまり嬉しくない。


「危ないからって手を繋ぐのは子供ですよ」

「事件に巻き込まれるのに大人も子供の関係ないですよ。僕は真白を守りたいから手を繋ぐんです。必ず守りますので、この手は離さないで下さいね」


 当たり前という表情でリンドヴルムさんが言った。本当に釘を刺して来る割にさらっと説いてくる。何を考えているかわからない。心臓に悪い竜だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る