第6話 【報告】家族が増えました  2

 確かにこの配信は魔物が仕切り始めている。そしてコメントを読む限り、つぶったーには人型スライムがトレンドに上がっている。……らしい。事情を知らないと私が魔物だと思うかもしれないな。それでも魔物と間違えられるのは勘弁して欲しい!


「こっちがスライムです!」


『そうだそうだ』

『こんな可愛い子がスライムなわけがないだろ』

『それ真白ちゃん。スライムになるやつやん』

『実際初見にはきついだろ。ぱっと見は人だし』

『このスライムさん。コメントを返していますからね』


 そう言われてしまうとな。この魔物は人みたいな事をしているし、わかりにくいかもしれない。同接数は増えているし、これから来てくれる方のために固定コメントを出した方が良さそうだ。まずは魔物からスマホを取り戻そう。


『定期:この男は人型の魔物です。配信主の真白さんに懐いて?います。今はキングゴブリン討伐配信(場所は把握済み)。女の子(真白さん)は人間! これでおk?』


 そのまま魔物が持っているスマホに手を伸ばそうとしたら、猫大好きさんが作ってくれたコメントが流れた。これでとりあえず私の魔物疑惑は回避出来そうだ。お礼を言わないと。


『猫さんさんくす』

『猫さん仕事早い』


「猫さん。定期あり」

「はてなはいらないです。後、NGワードスライムを追加して下さい」


 お礼を言おうとしたら、途中で魔物に声を遮られる。どうやらこの魔物は気に入らないらしい。せっかく書いてくれたのに。


『チェックが厳しい』

『めんどくせ』

『緊張感がなくなる』

『定期:この男は人型の魔物です。主の真白さんに懐いています。今からキングスライム討伐配信(場所は把握済み)。女の子(真白さん)は人間!NGワード:スライム』

『おk』

『猫さんありがとー』


「ありがとうございます。このコメントを固定しますね」


 そう言いながらスライムがスマホを操作する。すぐに猫大好きさんの定期コメントがコメント欄の一番上に固定される。


『スライム言うなと言うならお前の正体をいえ(定期)』

『正体を知っても同接は減らないだろ。なんでじらすの?』


「偉い人に確認してからの方が良いからですよ。余計な事を言って配信を中断されるのは避けたいですからね。真白は再生回数で稼いでいますし、僕も真白のペットとして生活費くらい稼ぐ必要がありますので」


 思ったよりもきちんとした理由だった。偉い人。きっと魔衛庁の事だろう。やっぱりこの魔物は人の事を良く知っている。不思議だ。


『思ったよりもまともな理由だった』

『捨てられても勝手に付いてきそう』

『あれ見て飼いたいと思う飼い主はいない』


「そんな事はないですよ。だって僕の外見はちゃんと真白の好みを反映しているんですから」


 ケラケラと笑いながら言う。確かにこの魔物の姿はまるで私の頭の中を覗いたくらいに完璧な外見だ。

 誰かに似ているが誰にも似ていないその容姿はただ好きな有名人を聞いただけでは真似できない。

 私の頭の中を覗いたってことだろうか? 目の前の魔物ならあり得そうだが、そもそもそんな事が出来る魔物がいるんだろうか?


『好みwww飼い主かわいそすぎるwww』

『九万人にさらされる真白ちゃんのタイプ』

『なんで真白ちゃんの好みの顔なの?』


「顔が良ければある程度の事は許されますからね」


 打算的な考えだが、確かにどろどろスライムよりもこの姿の方がまだ話せると思う自分もいるので複雑なところだ。


『※ただし人間に限る』

『草』

『www』

『って、皆さんスルーしてますが、なんでこの魔物は真白さんの事を知ってるんですか?』


「なんで僕が真白の事を知っている? これも確認事項ですね。雑談配信で話せる内容でしたら今度話します」


『雑談配信?』

『別の枠で話すって……コト』


「ええ。後で質問フォームを作りますので、質問を送って下さいね。ただ偉い人から答えちゃダメって言われたら内緒です」


 ウィンクしながら言った。この魔物は質問フォームの作り方も知っているんだ。話すたびに疑問が増えていくばかりだ。


 ***


「ダンジョン探険配信? キングゴブリンのいる場所までもう少し時間がありますからね」


 魔物はまるでピクニックでも行くんじゃないかと思うくらいに軽い足取りでどこかへと向かっていた。キングゴブリン討伐なのに余裕たっぷりだな。

 のんびりとコメントを読んでいるし。少し距離を置いているのでコメントはわからないが、他愛ない話をしているのは聞いていてわかる。


「同接十万おめでとう。あっ。十万いったんですね。ありがとうございます」


 魔物とリスナーの言葉を聞き流していると突然、あり得ない言葉が聞こえた。同接十万? 急いで魔物に近づき持っているスマホを見ると視聴者数が十万八千十三人と書かれていた。


「えっ、あ、ありがとうございます」


『おめ』

『10万おめ』

『おめでとうございます!』


 リスナーさん達のおめでとうで画面が埋まる。リスナーさんが増えるのは嬉しいがこの魔物が関わっているせいか少し複雑だ。


「ふふっ、真白のお祝いしたいところですが、そろそろキングゴブリンですよ」


 魔物はそう言いながら立ち止まる。魔物の視線の先を見ると洞窟があった。


 洞窟の前に立つと魔物がスマホに触れた。変な事をしていないか念のため確認すると配信を待機画面に変更していた。


『どうしたの?』

『待機画面になった』

『トラブルですか?』


「これから眩しい映像が流れますので、少しの間音声だけになります。真白も目を瞑った方が良いですよ」


 言われた通りに目を瞑る。目を瞑っていても閃光のような明るさが辺りを包んだのがわかった。そしてすぐに「ヴォォーーー」と獣の叫び声のような音が聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る