第5話 【報告】家族が増えました  1

 家族が増えた。しばらくその言葉の意味を理解出来なかった。この魔物は私にどこまで付いてくる気だろうか? 家に帰る。お寿司を食べる。やっぱりダンジョンから出るつもりなのかな? まさか。そんなことは魔衛庁が許さないだろう。


『できんのかいwwwペット失格だろwww』


 コメントを見ながら考えていたら、強いコメントが流れる。スライムが人に近い話をしているからか、リスナーさん達も段々といつも通りになってきた。

 普通ならあり得ないが、きっとそのコメントを見てスライムがくすくすと笑っているのもあるんだろうな。

 コメントに夢中の魔物。だから注意を引きつけるためにコメントをする。最初はそんな理由だったのに、段々と普通の配信コメントになっていた。


「ペット失格じゃないですよ。ペットは少しポンコツの方が良いんですよ。顔が良いだけだとつまらないペットですからね」


『は?』

『おい』

『自分で言うな』

『男は中身だ』

『イケメン死すべし』


 イケメンに反応したのか一気にコメントが流れた。確かに自分でイケメンって言うのは良くないからな。

 ただスライムはコメントには気にしていないようでふわふわとした微笑みを交えながら話す。


「綺麗な顔のが良いですよ。ただどんなに綺麗でも人は三日くらいで飽きてしまうようですし、少し属性をつけようと思います。キングゴブリンを簡単に倒せる一流のペットなんてどうでしょう?」


『属性:一流のペット』

『聞いた事がない属性だな』

『ペットなら犬系男子?』

『わんこ』


 一流のペットってなんだろう? よくわからない。コメントを見ていたら結論:犬って流れになっている。犬? なのかな。と言うか犬と言って良いのかな、スライムの様子を探るように横顔を見るが、微笑んだままでよくわからない。


「ふふっ。期待されてもお手は出来ませんよ。キングゴブリン討伐で妥協して下さい。もし真白のペットが上手にキングゴブリンを倒せたらチャンネル登録お願いしますね」


 お手は出来ない。そこなんだ。と言うか犬については特に言わないんだ。


『犬でええんか』

『お手は出来ないけど、キングゴブリンは倒せる』

『普通逆なのでは…』

『謎が増える』

『ペット面してる』


 確かに私のペットと主張している。このスライムをペットにした記憶はない。ため息をつきながらコメントを見ているとスライムが私の名前を呼んだ。


「さて、真白。そろそろ行きますか」


 スライムは私を見ながら微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。

 そのまま魔物の様子を少し見るが、私に手を差し伸べる様子はない。自分で立てと言うことか。別に手を差し伸べて欲しい訳ではないが、なんとなく距離があるように感じた。


 距離がある方が助かると考えよう。

 いつの間にか目眩も治まったみたいだ、それでもふらつかないようにいつもよりもゆっくりと立ち上がる。


「バズるためです」


 立ち上がる途中で魔物の声が聞こえた。バズる? 視線を魔物に移すとなんかとても良い笑顔をしていた。

 何を話していたんだろう? ちらっとスマホを覗くと勢いよくコメントが流れていた。


『バズる』

『正直www』

『バズりを気にするスライム』

『人型スライムがトレンドにあがったよ』

『そろそろバズりスライムに変わるなw』


 なるほどわからん。チラリと魔物のを方をみると楽しそうに笑っていた。


「だから僕はスライムではないですよ。もう少し格好良い言葉でトレンド入りしたいですね。真白のペットとか』


『格好良いのか?』

『諦めろ』

『無理だろ』

『スライムいやなら、正体をはよ』

『言えないんだったらスライムでええやん』


 スライムじゃないと言っているけど、最初のはどう見てもスライムだった。ただここで私が口を挟むと面倒になりそうだ。と言うかここからキングゴブリン探索耐久が始まるし、少しでも早く始めたい。


「魔物さん。キングゴブリンを探しに行きますよ」


 スライムと呼ぶと面倒な事になりそうなので、魔物さんと呼んだ。反応を窺おうとしたが、表情からはわからない。とりあえず呼び方がわかるまでこれでいこう。


「はい。真白に呼ばれたので、今から討伐を開始しますね。僕の正体はその内きちんと言いますから。僕の事をスライムって呼ぶのは今回の配信だけですよ」


『魔物さん』

『魔物は否定しないんですね』

『俺らも魔物でええか』

『そもそもお前は今回限り』

『真白さんはソロ専門ですし、諦めて下さい』

『同期もコラボ出来ないんだっけ?』


「僕は特別です。わかって貰うために今からキングゴブリンを討伐しに行くんですよ。ねっ、ご主人様。僕の活躍をちゃんと見ていて下さいね」


 少し低い色気たっぷりの声だった。目を少し細めて笑う姿もセクシーで一瞬ドキッとした。

 好みの顔立ちだから仕方ないかもしれないけど、正体はスライム。そう考えてときめきを消す。そもそもときめいている場合じゃないし、これからキングゴブリンだ。そんな簡単に見つからないし、数時間は覚悟しないといけない。


「わかりましたから。行きましょう」


 とりあえずダンジョンの奥にはいるだろう。まずは奥に進もう。魔物に伝えるが、魔物は動く様子がなかった。


「真白。そっちじゃないですよ」

「そっちじゃない?」

「はい。キングゴブリンの場所へは僕が案内しますので、付いて来て下さいね」


 え?


「付いてきて?」


 聞き間違いかな? そのまま尋ねるように言葉を繰り返す。そんな私に対して魔物は相変わらずニコニコと笑っていた。


「はい。今からキングゴブリンの場所に向かいます」

「向かう? 場所がわかるんですか?」

「もちろんですよ。ですので真白ははぐれないよう僕について来て下さいね」

「は……い」


 爽やかな表情に思わず返事してしまった。けどなんでキングゴブリンの場所を知ってるの? キングゴブリンは隠れるのが得意って聞いたよ。


「いやいや、なんで知ってるの!?」

「変異種の動向は把握していますよ。パワーバランスが変わると争いがおきますからね」


 パワーバランス? 何かあったっけ。誰かが解説してくれないか魔物に近づき、魔物が持っているスマホからコメントを見る。


『パワーバランス?』

『六本木ダンジョンみたいになるんじゃね。ほら、あそこ封鎖されているし』

『ああ。確かにここって安定しているよな。初心者向けだし』

『人に優しいファーヴニルさまさま』

『リンドヴルムじゃないの? このダンジョンの支配者って』


 魔物同士で無駄な争いを起こさないようにしているってことかな。

 日本橋のダンジョンが初心者向けと言われているのは、魔物同士で争いを起こすことがないからだ。詳しい理由は判明していないが、ここのダンジョンを支配しているファーヴニルとリンドヴルムが争いを好まないからと噂レベルで聞いた事がある。

 そもそもその二匹が人の前に現すことはないし、本当に存在するかも謎だからな。……って、そんなダンジョンでこの魔物は私に協力しても良いのだろうか? パワーバランスと言っているし、リンドヴルムとファーヴニルに目をつけられたら問題だよね。


「魔物さん。キングゴブリンを討伐しても問題ないんですか?」

「ええ。別に魔物同士が争ってはいけないってわけじゃないですし」

「そうではなくて、先ほどパワーバランスが変わるってお話されていたので」

「ああ。それでしたか。キングゴブリン一匹程度でしたら、さほど影響はありません。それよりも今は真白の味方だと信じて貰う事の方が大事ですからね」


 きっと人の味方って言いたいんだよね。真白が凄く強調されたような気がするけど、気のせいと言うことにしておこう。


「わかりました。問題ないのでしたら、よろしくお願いします」


 とりあえず返事はしたが、知らないことがいっぱいで頭がパンクしそうだ。こんな時はコメントだ。誰かがアドバイスしてくれているかもしれない。

 そのまま魔物の持っているスマホへ視線を動かす。


『初見です。人型スライムと聞いて。人間はどっち?』

『どっちwww』

『草』

『草』

『悲報:真白ちゃんスライムと間違えられる』


 あれ? コメント欄に不穏な文字が流れた気がする。

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