第4話 【耐久配信】ゴブリン300体倒します 3

『ダンジョン配信者大集合ってま?』

『キリヤ鉄ニキマリリン』

『ルルと虎男もおったで』

『ねねたそもいた』


 全てのコメントを追い切れていないが、私が確認出来た以上に色んな方が助けてくれている。

 それに登録者数が五十万人や百万人と雲の上の方々がコメントしているらしい。


 どこか他人事なのは実感がわかないからだ。謎のスライムに同接七万人に有名配信者さん達が大集合。これは夢ですって言われても頷くと思う。

 夢か現実かまだ曖昧だが、色んな方が助けてくれている。私も少しでも状況がよくなるように動かないと。

 って気持ちだけ先走るのは良くない。まずは状況を整理するように、コメントを見ていく。

 私よりも経験豊富な方々がこの配信を見てコメントをして下さっている。私が一人で考えるよりも断然良い。


『この配信はアーカイブが残るかわからないから、ダンジョンに関わっている人は見ていた方が良いです』

『魔物が話すのを見たことがないからな』

『魔物が人の姿をするのも初めて見ました』

『コメントしていないだけで冒険者も結構見ているんだろうな』

『同時視聴配信している冒険者がおる』

『同時視聴まずいだろう』


 え? それどころじゃないのに。こういうときのガイドラインってあったっけ。


「同時視聴は問題ないですよ。ただ僕が出ている動画の同時視聴は全てアーカイブ非公開でお願いします。後は……ミラー配信は魔衛庁の配信ガイドラインにあるように禁止ですね。見つけたら通報して下さい。他に何か確認したい事がありましたら言って下さい」


 ガイドラインを思い出そうとしたら、スライムが普通に案内した。なんでこのスライムは配信にこんな詳しいんだ?


『案内ありがとう?』

『通報了解』

『なんでスライムが案内しているんだ』

『俗物めいたスライムだなwww』

『草』

『同時視聴を知っている?』

『ミラー配信も?』


「ええ。人の文化にはそこそこ詳しいですよ。人の世界に馴染むには大事ですからね」


 余裕たっぷりで笑いながらスマホを見ている。人の世界に馴染む。話している様子を見る限りだと友好的に見えるが、最初は殺気がすごかった。それに私に寄生しようともしていた。何か裏があるはずだ。油断できない。


「真白。他に注意喚起ありますか?」

「な、いです」


 私の視線に気付いたのかスライムが私の方を見ながら笑いかける。他には、ないよね?

 このスライムが全て言ってくれた気がした。それにしてもなんでこんなに配信に詳しいんだろうな。リスナーさんとも普通に話しているので、きっと途中から見た人はこの男の人がスライムとは気付かないだろう。

 もしかして、このスライムは元々人だったとか?


「どうされましたか?」

「あなたは何者ですか? スライム? 人?」

「どちらでもないです」


 突然だったので、思った事をそのまま尋ねるとスライムがさらっと答えた。人でもスライムでもない。と言うことは他の魔物と言うことだろうか?


「人でもない? ならなんでこんな普通に配信をしているんですか?」

「ダンジョン配信を知っているからです。詳しくはこの枠が終わってから話しますね。ほらまだゴブリン耐久は終わっていませんし」

「ゴブリン耐久?」

「ええ。中途半端で配信が終わると低評価がつけられますよ」


 耐久配信や評価も知っている。気になるが、配信が終われば教えてくれる。ならまずは配信を続けた方が良い。


「配信を続けましょうか」

「はい。ですので今は笑顔です。ほらリスナーさん達も見ています」

「はい」


 と言われてもこの状況で笑顔なんて出来ない。無理して笑うが、笑顔がぎこちないのはすぐにわかるようで、スライムが噴き出すように笑った。


「ぷぷっ。そんなに僕のことが気になりますか? 嬉しいですが、今は配信中なので答えられません。なので今言えることは……あなたの味方です」

「味方?」

「はい。それ以上はおいおいきちんと話します。あっそうだ。次の配信で多分話すと思いますので、チャンネル登録がまだでしたら、チャンネル登録をお願いしますね」


 なんで私のチャンネルを宣伝しようとしているんだろう。と言うか次っていつだ。色々気になることがあるけど、正直聞くのが恐ろしい。現実逃避するようにコメントを見る。


『唐突な宣伝草』

『宣伝えらい』

『チャンネル登録押しました!』

『次?』

『しっ』

『そこは一旦スルーだ』


 いつも通りの配信っぽく普通のコメントをしてくれているみたいだ。作られている気もするが、それを見ていると妙に冷静になれた気がする。


「チャンネル登録ありがとうございます。さて、トラブルも解決しましたし、配信の続きをしましょうか。と言ってもゴブリンを百十三体ですよね。うーん。どうしましょうかね。真白も僕も早く家に帰りたいんですよね」


『解決?したのか』

『そもそもの元凶ですよ』

『家に帰る?』

『ダンジョンの家』

『ダンジョンにある巣穴だ。気にするな』


「ふふっ、僕の家はどこでしょうね。それよりもゴブリンが増えた原因は僕ですし、日本橋のゴブリンは増加は解決してしまったんですよ。そんな状況でゴブリンを探すのは大変です。代わりにキングゴブリンを一体で良いですか? お寿司代も足りますし」


 コメント欄には触れずにスライムが続けた。一斉には? と言う言葉で埋め尽くされる。

 私もだ。ゴブリン増加の原因。そしてキングゴブリンを討伐する。さらっと言う内容ではない。


 このスライムは何物なんだろうな? キングゴブリンを倒すって簡単に言っているし。


 キングゴブリンは一万匹に一匹くらいの確率でゴブリンから変異した魔物で私なんかより全然強い。軽く倒しますね。と言う魔物ではない。

 それにキングゴブリンは隠れるのが得意だから簡単には見つからないし……。正直な所キングゴブリンを探すよりもゴブリンを百体討伐する方が早く終わると思う。


 知っているのかな? そっとスライムを見ると微笑みながらスマホのコメントを読んでいた。私とは正反対に暢気だ。


「スライムに食わせる寿司はねぇ? あっ。確かに僕の分のお寿司代がないですね。でしたら投げ銭ですかね。ちょっと待ってくださいね。投げ銭をオンにします」


 そう言うとスマホを操作する。すると少ししてから急にコメント欄がカラフルな色で埋め尽くされた。

 え? 投げ銭?


『【1000円】』

『【300円】』

『【5000円】今まで楽しませてくれた分』

『【8000円】スライム。良いやつだな』

『【500円】手のひら返し草』

『【13000円】支援タイムじゃあああああ』

『【500円】中とろ代』

『【50000円】』


 収益化記念配信の時みたいにお金が流れていく。っていっちーさん無言で五万円はやめて。


「投げ銭しないで下さい。皆さん。そのお金でお寿司を食べて下さい。お寿司ですよ。お寿司」


『【5000円】真白ちゃんがあげる寿司の写真でしか得られない栄養がある』


「そんなものないですよ」


『【8000円】わかる』


「わからないで下さい」


 そんなくだらない話をするためにそんな高額な投げ銭をしないで欲しい。スライムからスマホを取り上げようとするが、スライムがそっとよけて立ち上がる。私も立ち上がろうとするが、まだ目眩が残っていた。立ち上がれないので届かない。

 

「思った以上に投げ銭がありましたね。これは真白がオフにするのもわかります」


 見上げるとスライムがスマホを操作していた。余裕どころじゃない。


「皆さん。ありがとうございます。大事に使わせて頂きます」


 たくさん頂いた大金にドキドキしつつもまずはお礼だ。

 伝わるかわからないけど、カメラに向けて精一杯伝えると再びスライムがしゃがみ私の横に座る。

 スマホの画面を見せてくれたので見ると、そこには色とりどりの文字がファンコミュニティのオレンジと普通の黒に戻っていた。


『こっちこそありがとう』

『半年分だ』

『投げ銭の波に乗れなかった』

『スライム様。ご慈悲を』


「ありませんよ。ところで皆さんキングゴブリンで構いませんか?」


 スライムは流れているコメントは特に気にせずにキングゴブリンの話に戻す。キングゴブリン……だよね。


『キングゴブリンを倒すのが見たい』

『俺も』

『私も』


 さらっとコメントしているが、キリヤさん達や他の有名配信者さん達のコメントで埋まる。

 きっとこのスライムがどう倒すのか知りたいんだろうな。

 キングゴブリンは未知の領域で怖いけど、なぜか私も火のスキルレベルもあがっている。頑張って燃やす。よし!


「キングゴブリンの討伐をお願いします」


 私の方向を見ると嬉しそうに笑った。


「はい。まずはタイトルと概要欄を変更しますね」


 スライムが待機画面に変えると、編集画面を開いた。

 タイトルを消し「【報告】家族が増えました」に変更する。そして概要欄の文字を全て消すと新しく打ち始める”今日は可愛いペットをお披露目だよ”


「家族? ペット?」

「はい」


 その言葉でニコニコと笑う。ペット? このまま付いてくる気なのか? そう考えていると、再びチャット欄に戻り、勢いよくコメントが流れる。『は?』だったり『ペット?』だったりとリスナーさん達も困惑しているのがわかった。


「初めまして、真白の可愛いペットです。多分お手は出来ません」


 編集し終えるとカメラの方向を向きながらスライムが言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る