第31話

人を追い込むということを初めてやったせいなのか昨日はすぐに眠りに着いた。


いつもより起きるのが遅くなるかと思いながら眠りについたものの起きた時間はいつもと全く一緒だった。


「はぁ昨日はひっぱたかれたとか物理的なダメージは何もなかったけど精神的に色々疲れたな」


そんなことをつぶやきながら歩いているといつのまにか学校についていた。


門の前に立っている先生に軽く頭を下げ挨拶をし中に入る。


俺は当たり前のように図書館に向かう。


俺にとって朝早くに図書館に来るというのが習慣になっていると改めて実感する。


もし図書館ではなく自分のクラスで何もせず待っていたら投稿してきた生徒たちにきっと気味悪がられるだろう。


静かに図書館の扉を開ける。



いつも通り鈴原が椅子に座り難しそうな文芸小説を読んでいる。


本を読んでいる人に挨拶をするのはどうなんだろうと考えているとゆっくりと手に持っている本をテーブルの方に置く。


「おはようございます篠崎さん」


いつも通りの平坦な口調ではあるが何かを悩んでいるようにも感じた。


というより何か聞くのをためらっているようなそんな感じだ。


「おはようございます」


とりあえず挨拶を返しておく。


「篠崎さんってあの試験の後どうしてたんですか?」


言われている意味がわからず首を傾げる。


「すいませんいきなり変なことを聞いてしまって昨日またトイレで何か事件があったと言う噂を聞いたものですから」


「篠崎さんが巻き込まれているという話を耳にして」


「でもまあ確かに事件はあったんですけど一通り昨日で片付いたのでそんなに心配しなくて大丈夫です」


「一体この前の事件と今回の事件何があったんですか?」


「話すと少し長くなるような気がするんですがそれでもいいですか!」


珍しく若干食い気味に尋ねてくる。


「ご迷惑でなければ聞かせてください」


「まず最初の事件は俺の水筒に下剤を入れられたところから始まりました」


「水筒に下剤!」


「俺もそこら辺は不思議なんですよおそらくはクラスメイトと話してる間に入れたんだとは思うんですけど」


「どうやって入れたのかは一切わからないんです」


「カバンの中に入れてたんでやりようがないと思うんですけどね」


「鞄から目を離している一瞬の隙をついて中に入れたとか?」


「いくら何でもそれは難しいんじゃないですかね」


「俺のカバンはあの時自分の席の横にかけてたんでバレずに中に入れようとしてもすぐにわかると思います」



「とにかく篠崎さんに何事もなくて良かったです」



「色々とご心配をかけてしまったようですいません」


「鈴原さんのおすすめの本ってありますか?」


「最近のおすすめの本ですか…」


なんとなくこんな会話をするのは久しぶりなような気がする。


少し悩んだような表情を浮かべた後席から立ち上がりしばらく本棚を見渡し一つの本を取り出す。


「この本なんてどうですかね」


そう言って持ってきた表紙の絵はとても恐ろしく不思議な感じがする。


「あらすじはどんな感じなんですか?」


「あらすじと言うかこの本を一言で説明すると、人間の黒い部分を描いた作品ってところでしょうかね」



「人間の黒い部分ですか」


言葉の意味自体はわかるがどういった感じの内容なのかもう少し説明してもらえないとわからない。



「裏切りとか嫉妬とかそういったものを丁寧に描いた作品って言った方が分かりやすいですかね」


「今まで進めてもらった作品とは少し違ってて面白そうですね」


今まで進めてもらった作品の中にもそういった描写はあったが記憶している限りそういうものを味付け程度に書いている作品しかなかったはずだ。


「ありがとうございます早速家に帰って読んでみます」


俺は教室に向かう。



教室の中に入ってみるといつも通り互いの机をくっつけて話している女子生徒たちが何人かいる。


だが心なしかそういう噂話をしている生徒たちがいつもより多いような気がする。


「おはよう」


進藤がいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべ挨拶をしてくれる。


当たり前のことではあるが机に物が散乱していたり落書きをされていないというのは朝から掃除をしなくていいので気が楽だ。


鈴原にテスト勉強に付き合ってくれたお礼をしなければいけないのもあるが、進藤にも何かお礼をした方がいいんじゃないか。


そう思いつつも何が欲しいのか全くわからないのでとりあえず保留にしておく。



「なんだかいつもより机をつけて喋っている人が多いような気がするんですけど俺の気のせいですかね?」


「俺も詳しいわけじゃないんだけどまた学校の中で新しい噂が広まってるらしいぜ」


「ねえ知ってるあの噂いつも図書館にいる鈴原っていう生徒が、色々と前の小学校で問題を起こしてるって話」


「ああ、聞いた聞いた今のクラスだと大人しいみたいだけど昔はすごかったって」


「昔は悪かったんだって自慢してくる奴らは何人か見たことあるけど本当に何も言わないってことは昔相当悪かったのかな?」


前の方の席からそんな話が聞こえてくる。


このまま席に座って黙って話を聞いていようかと思ったが気がついた時にはもう俺は席から立ち上がりその女子生徒たちに近づいていた。


「あのすいませんその噂って誰から聞いたんですか?」


「誰から聞いたって隣のクラスの友達から聞いたけど」


「私も友達からこの噂聞いたけどそれがどうかしたの?」


「いいえ特にどうということはないんです、ただ少し気になることがあって」


「教えてくれてありがとうございます」


そう言って自分の席に戻ると隣の席に座っている進藤が声をかけてくる。


「どうしたまた気になる噂だったのか?」


「はいまぁ…」


授業を終えて家に帰りスマホでこの前ダウンロードしたSNSを開く。


この前俺が悪口をネットに書き込んでいると履歴の着せられたアカウントを探す。


そのアカウントに対してコメントしているアカウントのプロフィールを開く。


するとアイコンも何もプロフィール文書をすら1文字も書かれていない。


なんとなくこのアカウントまで飛んできたがこれじゃあ学校の生徒かどうかすら分からない。


ユーザー名@Kaburaki


とは言ったもののおそらくあの女子生徒が使っていたであろうアカウントをフォローしているということは少なくともあの女子生徒とリアルで関わりがある人物の可能性が高い。


だがそれが分かったところであの女子生徒の人間関係を把握してるわけではないのでまるで役には立たない。



とりあえず俺はそのアカウントの投稿内容をいつでも確認できるようフォローしておく。


「現時点でネットで噂を流しているんだとしたらこのアカウントの可能性が高い」


最近の投稿をしばらく遡ってみるとあの女子生徒たちが会話していた内容とほとんど同じ内容が投稿されていた…


「やっぱりこのアカウントが噂を流した可能性が高いな」


ホーム画面の方に戻ると誰かから1つのダイレクトメッセージが届いたようで1と表示される。


不気味に思いながらもそのダイレクトメッセージを開く。


するとメッセージにはこう書かれていた。


私とゲームを始めましょう。


「ゲームを始めるってどういうことだ」


なんだこのさっきから誰かの手のひらで踊らされているような感覚。


「とりあえずわざわざ俺のフォローに反応してメッセージを送ってくるってことは向こうも同じ学校の生徒であることを気づいている」


「でもちょっと待て何で俺のアカウントにダイレクトメッセージを送ってきたりしたんだ?」


しかもあんな意味のわからない内容を。


しばらく理由を考えてみてもそれらしい答えが出てこない。

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