第30話

「なぁ次の3時間目の授業が始まるまでの少しの間、グランドの方に行って話せないか?」


どこか真剣に帯びた口調で進藤が俺に声をかけてくる。


「分かりました」



「あそこのベンチに座って話そうぜ」


「はい」


短く言葉を返しベンチに座る。


「悪かった!」


少し間を開けいきなりそんなことを言ってくる。



「何ですかいきなり顔を上げてください」


身に覚えのない謝罪の言葉に困惑し下げた頭を上げてもらう。


「篠崎に一方的に俺の考えを押し付けるような言い方をしてたなと思って」


記憶している限りそんなことを言われた覚えはない。


「俺は大丈夫です、気にしないでくださいというかそんなことを言われた覚えはありませんよ」


「でもいくら篠崎がこのままでいいと思っててもさすがに限度ってもんがあるだろう」


と言われ確かに今のように軽蔑の目を時々向けられるならまだしもこれからもっとひどくなっていく可能性はある。


「それなら進藤さんに協力してほしいことがあるんですけどいいですか?」


俺が真剣な口調で尋ねると、まだ何も説明していないのに任せろと地震ありげな口調で言う。


少し不安に思いながらも俺はたった今考えた作戦を伝える。


「なるほど俺はとりあえずその指示通りに動けばいいんだな」


「作戦と言っておきながら金井さんが入ってくるかどうかの保証はないんですけど」


「作戦通りに行かなかったらその時はその時だろう」


3時間目の授業が始まり途中。


「先生俺トイレに行きたいんですけど!」


進藤が手を上げ総先生に伝える。


「分かったわざわざそんなでかい声で言わなくていいとっとと行ってこい」


「先生俺もトイレに行っていいですか」


「分かったお前もとっとと行ってこい」


俺は教室を出てこの場所から少し遠いもう一つのトイレの方に向かった。



俺の読みが正しければ俺が1人になったタイミングを見計らって周りを警戒しながら入ってくるはず。


ただこの作戦には何の保証もないので予想通り来てくれるかは全くわからない。


実際そんなリスクを再び犯してまで俺がいる男子トイレまで入ってくる理由が全くわからない。 


しばらくすると誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。


中に入ってきたのは俺が予想していた通り金井だった。



「何であなたがこんなところに入ってきてるんですか!」


ばれないように驚いた口調で言葉を口にする。


「そんなの私にとってはどうでもいい」


「金井さん何なんですかあなたはこんなところにまで入ってきて何をしたいんですか!」


「そんなのあなたに教えたところで私にとって何の得もないでしょう」



「ただ一つだけあんたに教えてもいいことがあるとすればこうしてあんたが1人になるところを待ってたってわけ」


「そんな何のために俺が1人になるタイミングを見計らったって言うんですか」


「それは口止めをされてるからちょっと言えないな」


俺を下から見下ろすようにし馬鹿にした口調で言う。


「もしかしてこの前俺の水筒に下剤を入れたのもあなたですか?」


「よくわかったわねわざわざばれにくいようになるべく小さくして入れたのに」


「何で俺にそんなことをするんですか!」


「俺何かあなたに悪いことしました?」


「もし悪いことをしてたんだったら謝りますだから…」


俺がそう言ったと同時に壁を思いっきり足で蹴り脅してくる。


「悪いことをしたかもしれないははは笑わせないで」


「私はあんたを利用したかっただけ」


「俺を利用したかった何のために?」


「それをわざわざあんたに教える必要はない」


「なるほど話は全部聞かせてもらった」


「進藤くんなんでこんなところに!」


「ここは男子トイレなんだから俺がいても何の不思議もないだろう」


「おかしいのはお前の方だなんで男子トイレのところにお前が入ってきてるんだ?」


「それはちょっとトイレを間違えちゃって」


「トイレを間違えただったら俺が今まで聞いてた話は何なんだ!」


進藤が真剣な口調で尋ねる。


「違うのただあれは!」


「何が違うって言うんだよ!」


今まで聞いたことのない怒りを含んだ口調を金井にぶつける。


「篠崎に言われたんだよ教室から一番近いトイレじゃなくこのトイレに入ったらお前が少し遅れて入ってくるかもしれないって」


「そんなこと予想できるわけが!」


「でも実際今こうしてお前はこの男子トイレの中に入ってきてる」


「俺は一番近くのトイレを使うと思い込んでたんだろう」


「だから1つ先にあるここのトイレは誰もいないって思い込んだんだ!」


進藤が言うと割れんばかりの叫び声をあげる。


するとあの時と同じように男子トイレの周りに野次馬たちが集まってくる。


「なんだなんだ」


「男子トイレで事件があったの?」


「この前トイレで起きた事件」


「篠崎が女子生徒を連れ込んだというのは真っ赤な嘘」


進藤が言うと周りの生徒たちはどよめく。


「嘘ってどういうこと?」


「金井が篠崎っていう生徒を罠にかけたってこと?」


「でも一体何のためにそんなことをしたんだろう?」


「金井は篠崎に罵倒の言葉を浴びせるためわざわざこの男子トイレに入ってきた」


「違う私はまたこの間と同じようにこの男子生徒にトイレに連れ込まれたの!」


「お前同じ言い分が通用すると思ってんのか!」


進藤が明らかな怒りを含んだ口調で言う。


「そうか確かにあの生徒がまた金井をトイレに引きずり込んだっていう可能性もあるのか」


「それは先生に確認してみればわかることだと思います!」


俺は1歩前に出て周りの生徒たちにそう伝える。


「授業中進藤さんが先生にトイレに行きたいことを伝えて」


「俺もその数分後にトイレに行きたくなって先生に伝えてここに来ているので確認してみればわかる話です」


するとクラスの担任の先生がなんだなんだと言いながら生徒たちに道を開けさせる。


「お前たちそこで何やってる!」


先生が言いながらたくさんの生徒がいる前を押し通る。


周りにいる生徒たちは一斉に同じ質問をした。


「進藤と篠崎が順番にトイレに行ったって本当ですか?」


改めて口にされると違和感のある言葉ではあるが俺が先生に聞いてみてくれと言ってしまったので仕方がない。


「ああ、そうだがそれがどうかしたのか?」


先生は当たり前だが状況を飲み込めてないらしくきょとんとした表情を浮かべている。


「お前たち全員まだ授業中だろうとっとと自分の教室に戻れ!」


先生が言うと生徒たちは気だるそうに言葉を返しながらはけていく。


「お前たち3人もとっとと教室に戻ってこい」


「先生すいません、まだ金井さんと話さないといけないことがあって」


「分かった話すのは一向に構わないがそこで話すのはやめろ色々と誤解を招くからな」


確かにこのまま男子トイレの中で喋っていては色々と誤解を招きそうだ。


俺たち3人グラウンドに2つあるうちの少し大きめのベンチに腰掛ける。



「それで私に話しってなに説教でもするつもり!」


もうすっかり開き直ってしまったようで進藤の前でも苛立ちを隠そうとはしない。


「トイレで話してた時口止めがどうのって言ってたよなどういう意味なんだそれ」


「聞かれて素直に私が答えると思う?」


「私はクラスの方に戻るから」


言って立ち上がりクラスの方へと向かって行く。


「おいまだ話は!」



進藤の言葉が聞こえていないのか振り返ることなくその場を去っていく。


とはいえひとまずこれで黒幕と言っては大げさかもしれないが、他の誰かが仕組んだことだということは明白になった。


「でもなんでわざわざこんなことを?」

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