第29話

ちょうど学校の門が開いたところで学校にたどり着いてしまった俺はどうしようかと少し考えてしまう。


「はぁ不意にため息が漏れる」


どうしよういつもより早く学校に着いちゃったけど。



と言ってもつい最近まではこの時間に投稿してくるのが当たり前だったが、あのトイレの一件以来図書館には行きづらくなってしまっている。


あのことに対して心配をかけたくないというのが大きな理由だ。


鈴原の噂のこともよく分かっていないのでしゃべっている最中にふと無神経にそのことに触れてしまうかもしれないという恐怖がある。


そんなことを考えつつも門の前にずっと立っているわけにもいかないので、 とりあえず中に入る。



「まず図書館の中に入ったら何て言えばいいんだっけ」


おはようございますと挨拶を交わした後どうすればいいのか全く想像ができない。 


今までは会話になれていないなりにもできていたと思うのだが、今はその後継すら頭に思い浮かべることができない。


いざ図書館のドアの前に立ってみると今までは感じていなかった緊張を感じる。


「よし!」


特に何か理由があるわけではないが気合を入れようと言葉を口にする。


念のため中を覗いてみると変わらず鈴原は本を読んでいる。


3回念のためドアをノックしゆっくりと扉を開け中に入る。


「おはようございます…」


「おはようございます…」


鈴原と向き合う形で椅子に座る。


「珍しいですね図書館の方に来るなんて」


「って言っても考えてみると2日3日ぐらいしか着てない日ないんですけどね」


「そう言われてみれば確かにそうですね」


自分の感覚的には1週間か2週間ほど来ていない感覚だったが実際にはそんなことはない。


図書館の幽霊の噂を調べたり濡れ衣を着せられたりで忙しかったので、あっという間に時間が経っているような感覚になっていたんだろう。


「篠崎さん…」


名前を呼んだところで一度言葉を切り言うのをためらったような表情でしばらく俺の方を見る。


「大丈夫ですか…」


少し間をおいて発せられた言葉はどこか緊張を含んだねぎらいの言葉だった。


「え?」


だがその言葉の意味がよくわからず疑問を返してしまう。


「言っていいことなのかどうなのか少し悩んだんですけど…もし篠崎さんが辛い思いをしてたらどうしようと思って」


「俺が辛い思いをしているというのはどういうことですか?」


「この前廊下を歩いていた時に篠崎さんのよくない噂を耳にしてしまって」


おそらくそれは女子生徒を男子生徒の俺が連れ込んだという根も葉もない噂だろう。


よくも悪くも俺に関する噂はそれ以外広まってはいないはずなので間違いはないはずだ。


「話を聞いていた限り悪い噂だったので本人に直接言うのもどうかと思ったんですが…」


「おそらくこれは私の勝手な予想 なんですけどやってないんですよね篠崎さん…」


「女子生徒を男子トイレの中に無理やり連れ込むなんてこと」


「ええ…」


その言葉に小さく頷く。


「俺がいくらやってないと言ったところで今言ってる言葉が嘘の可能性もあるわけですから信じてもらえないとは思うんですけど」


「信じます!」


鈴原にしては珍しくはっきりとした口調で言う。


「私はそんなことをしない人だって信じてます!」


「そうですか…それはありがとうございます!」


全く予想していなかった熱量を含んだその言葉に少し動揺してしまう。


俺の手を両手で包み込むように握る。


「それはとても嬉しいんですけど…」


緊張した口調で言いながら手の方に視線を落とす。


すると無意識のうちに俺の手を握っていたことに気づき、鈴原の顔が一気に真っ赤になる。


「あああの… 」


緊張と同様と様々な感情が入り乱れているせいでうまく舌が回っていない。


「すいません!」


「気にしないでください嫌なわけじゃないので」


それはそれで気持ち悪くないかと口にした後思ったがもう今さら引っ込めることはできない。


「俺もうそろそろホームルームの時間になるので教室の方に行きますね」


「はい、いってらっしゃいませ!」


緊張と同様のあまりアニメに出てくるメイドのようなセリフを口にする。



そのせいでさらに顔が真っ赤になり今度は耳まで真っ赤だ。


俺が下手に言葉をかけてしまえば恥ずかしさのあまり爆発してしまいそうだったのでそのまま何も言わず廊下に出る。


自分の教室に向かってみるとまた机が汚されているが、進藤が掃除をしてくれていた。


「進藤さん」


「篠崎おはよう」


「いいですよ俺が自分でやりますから」


そう言うと分かりきったことではあるが、気にしなくていいという言葉が帰ってくる。


昨日と同じように2人で俺の机の掃除をし先生が教室の中に入ってくる前に掃除を終わらせ席に座る。


「ホームルームを始めるぞ」


先生が言うと周りの生徒たちはけだるさを含んだ口調で言葉を返す。


「篠崎はこのままでいいのか?」


「それはどういう意味ですか?」


いきなりのその言葉に言っている意味がわからず疑問の言葉を返してしまう。


「周りの奴らにこうやって誤解されたままで」


「…」


「もちろん周りの人たちに本当のことを知ってほしいっていう気持ちはあります」


「だったら…」


俺は進藤の言葉を遮ってこう言った。


「でも信じてもらえるような証拠もありませんしどうしようもありませんよ」


諦めを含んだ投げやりな口調で言う。


「それにあんなにたくさんの生徒たちを叫び声で集められてたくさんの人があの状況の中で悪いのは俺だって思ってるでしょうし」


「そんなのおかしいじゃねえか!」


ホームルームの最中ということもありなんとか声を小さくし歯を食いしばりながら言う。


「しょうがないって何がだよ!」


我慢できなくなったのかいきなり立ち上がりクラス全員に聞こえるほどの大きな声で俺に言葉をぶつけてくる。


周りの生徒たちは普段爽やかな笑顔を浮かべている進藤の声に驚きほとんどの生徒たちが振り返る。


「何々何かあったの?」


「またあの生徒が何かやったんじゃないの?」


周りの生徒たちは俺のことを盗み見るようにしながら口々にそんなことを言う。


入学してきてからまだそんなに時間は経っていないがあの人と言いながら何人かのクラスメイトが俺のことを指さしてくる。


まあ自分からいろんな人に話しかけるような陽キャのタイプではないのでまともに名前を覚えてもらえてなくて当たり前だ。


「おいおいどうした喧嘩か」


「喧嘩なら廊下に出てやれ


「今は授業中だ他の生徒の迷惑になる」


文字を書いていた先生が顔を向けめんどくさそうな口調で言ってくる。


「すいません俺が悪いんです」


進藤は言って軽く頭を下げ自分の席に座る。


「とにかく俺のことは何も気にしなくていいですから」


今度はなるべく怒らせてしまわないように丁寧な口調で言う。


「でもだからって友達が大変な目に遭ってるのに見過ごすわけにもいかねえだろう」


「大丈夫です俺が必ず自分で何とかしますから」


そうこれは勝手に始めたことだ俺がなんとか自分で決着をつけなきゃいけない。


大丈夫小学校の時に受けたいじめに比べればこれはまだいいほうだ。


直接暴力を振るわれたわけでもない。


「話を聞いてるのか?」


なるべく自然な笑顔を顔に浮かべすいませんと言葉を返す。


大丈夫だ俺なら何とかできる!


「進藤くんを怒らせるなんてあの子何したの?」


「分からないけど普段優しい進藤くんを怒らせたってことは相当何かやばいことしたんじゃない」


小さな声でそんな言葉が飛び交う。


しばらくの間この空気に耐えるんだ!

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