第16話

目を開けると白い天井が見える。


「大丈夫か?」


声が聞こえそっちの方に顔を向けてみると心配そうに俺の顔を見ている進藤がいた。


「進藤さんがどうしてここに?」


ベッドから体をゆっくりと起こし尋ねる。


「篠崎がキャッチボールをしている最中に俺の投げたボールに気づかないで顔面に勢いよく飛んできたボールを食らったんだよ」


言われさっきまでのことをおぼろげながら思い出す。


確か2人でキャッチボールしてて俺が変な方向に飛ばしてボールを拾いに行って、その時に男子生徒の何人かが変な噂をしてるのを聞いて。


半信半疑でその話を盗み聞いた後進藤さんのところに戻ってまたキャッチボールを再開して。


俺キャッチボールをしてる最中に図書館に出てくる幽霊の話が気になって考えてた時に投げられたボールに反応できずに顔面に食らって倒れたんだ。


「すいませんあの時は少し考え事をしてて」


「それは別にいいんだけど今どこか痛むところとかあるか?」


「いいえ特には」


「それなら良かった」


「けどしばらくしてどっかに痛みが出てくるようならすぐに病院行けよ」


「俺が投げたボールが顔面に直撃してさっきまで鼻血が出てたしな」


今の俺の鼻からは鼻血が出ていないので血は止まってくれたみたいだ。


そんなことよりも俺の心配をしてくれるどんだけいい人なんだ。


薄々感じていたことではあるけど進藤さんはただの陽キャじゃない優しい人だ。


「それじゃあ俺は教室の方に戻るけど、もし大丈夫そうなら教室に戻ってこいよ」


「色々と迷惑をかけてしまい申し訳ありません」


「このぐらい迷惑でもなんでもねぇよ」


「とりあえず怪我しなくて本当によかった」


爽やかな笑顔を俺に向け保健室を出ていく。


進藤が保健室を出て行って5分ぐらいしたところで俺もすぐに自分の教室に向かう。



「怪我の方はもういいのか?」


ほっとした表情を浮かべ進藤が尋ねてくる。


「篠崎特に何も問題がないなら座れ」


はいと軽く返事を開始先生に言われた通り自分の席に座る。


「本当にどこも怪我とかはしてないのか?」


優しく声をかけてくれる。


「5分ぐらい保健室のベッドで休憩をして様子を見たんですけど特に問題がなさそうだったので教室の方に戻ってきました」


「色々あったけどキャッチボール楽しかったからまたやりてえな」


「そうですね」


ちょっと変わったキャッチボールではあったが、俺にとってはとても新鮮で楽しかった。



「放課後出し一緒に帰ろうぜ!」


篠崎が後ろからそう言ってきて肩を組んでくる。


「はい…」


後ろからいきなり声をかけられたので少し驚きつつも篠崎と一緒に帰るのは素直に楽しいので是非そうしたい。


「そういえば前にも聞いたことかもしれないけど普段家で何やってるんだっけ?」


ロッカーの中から自分の靴を取り出し吐きながら訪ねてくる。


「そうですね家の中だと小説を読んだりゲームをやったり漫画を読んだり」


「ゲームだと最近は何やってる?」


「どれか特定のゲームをずっと入れ込んでるって言うよりかは気が向いた時に適当にプレイしてる感じですかね」


「最近までプレイしてたのはファンタジーゲームが多かったです」


「ファンタジーゲームで言うと俺はオープンワールド形式のゲームをよくやってたな」


どこか懐かしむような口調で言う。


「今はあまりやってないけど」


「なあ何かゲームやらね?」


「ゲームですか?」


言っている意味がよくわからず疑問の言葉を返す。


「しりとりとかでもいいんだけどなんか安直な気がするな」


「それなら連想ストーリーゲームなんてどうでしょう?」


「連想ストーリーゲームなんだそれ」


「今即興で考えたやつなので名前も適当なんですけど簡単に説明するとその名の通り即興でストーリーを考えていくゲームです」


「本当にその名の通りなんだな」


「お互いに口に出しながらストーリーを次から次へとつないでいくっていう感じです」


「言葉の制限とかないのか?」


「文字数の制限もありません」


「最初に作り始めたストーリーの内容からあまりにもかけ離れている内容を言った場合はその人の負けです」


「なんとなくわかったそれじゃあ最初にお手本を見せてくれ」


「とある村に勇者の剣が封印されていた」


「次どうぞ」


「その村に封印されている剣を使い勇者が魔王を倒ししばらく村には平和が訪れていた」


「だがある日…」


「その村に人間ではない何かが侵略してきた」


「なるほどまだ1ターンしかやってないけどこれ脳トレに良さそうだな」


即興で考えたゲームをそう言ってくれると嬉しい。


ただこのゲームに一つ難点があるとすれば時々周りの人から向けられる視線が痛い時がある。


しばらくゲームを続けていると進藤が急に足を止め蒼ざめた表情へと変わる。


「どうしたんですか?」


と言いながら同じ方に顔を向けてみると、俺たちと同い年ぐらいの柄の悪い格好をした1人の男がこっちに向かって歩いてくる。


「進藤お前!」


その男が進藤を目で捉えるなり怒りの感情を含んだ口調で言葉をぶつけ詰め寄ってくる。


何もわからない俺は状況が飲み込ず慌てふためく。


何なんだこの人は進藤さんの知り合いなのか?


進藤は男の言葉には一切反応せず俯いたままだ。


「おいなんとか言ってみろよ!」


男は怒鳴り声を上げ進藤の胸倉に掴みかかる。


「もう学校卒業したから赤の他人ってか、友達引き連れてずいぶんと楽しそうだなおい!」


「やめてください!」


男が胸倉を掴んでいる手をなんとか話そうと間に入り力ずくで引き剥がす。


なんとか引き剥がすことはできたものの怒りの目が俺に映る。


「お前邪魔すんじゃねぇよ俺はこいつに言ってやんないといけないことがあるんだ!」


怒りの声を上げ進藤に殴りかかろうとする。


「何があったのかは分かりませんけどいきなり殴りかかるのはやめてください!」


「何も知らねえお前に指図される覚えはねぇ!」


「あの時のことは本当に申し訳ないと思ってるだけど…俺の友達は関係ないだろう」


どうしたらいい俺に何ができる!


そもそも俺に何かできることはあるのか!


「あの…」


「だからお前に何か指図される覚えはねぇって言ってんだろう!」


強い怒りを含んだ口調に耐えながら淡々と言葉を口にする。


「お2人の間に何があったのかは分かりませんが、こんなところで言い合っても何もなりませんよ!」


言うと睨みつけられ殴られることを覚悟したが掴んでいた胸ぐらを手から話舌打ちをしながらその場を去っていく。


男の姿が見えなくなったところで全身の力が抜け地面にへたり込む。


「大丈夫か篠崎!」


言いながら駆け寄ってくる。


「大丈夫です緊張が解けて全身の力が抜けただけなので」


苦笑いを浮かべ足に力を入れ立ち上がろうとするが腰が抜けて立ち上がれない。


「あれおかしいな立ち上がれない」


「本当に大丈夫かよ」


言いながら肩を貸してくれる。


一瞬あの男と知り合いなのかと聞こうとしたがあの雰囲気から察するに中が良さそうじゃなかったのでやめておく。


「ありがとな…」


小さな声で言う。


「いいえ俺は何もしてませんよ」


実際俺はあたふたしてるだけで特に何もできなかった。


「そんなことはねえよ、あいつから俺を引き剥がそうとしてくれたじゃねえか」


「とりあえず見た感じ怪我がなさそうで良かったです」


「俺はこう見えて丈夫だからな」


それから家の近くまで送ってもらった。


「送ってくれてありがとうございます、ここから先は自分で帰れるので」


「そうかじゃあまた明日な」

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