第17話

「ただいま」


疲れきった声で言いながら扉を開ける。


「どうしたのそんな疲れ切った顔して」



「いや家に帰ってくる前に色々あって大変だったよ」



冗談ぽい口調で言う。


俺はとりあえず自分の部屋に行き仰向けで横になる。



進藤さん助けてくれてありがとうって言ってくれたけど本当に何もできてないんだよな。


あの時はたまたま自分の意見を上手く伝えられたとはいえいつもああいう風にできるとは限らない。


それにしても進藤さんのあんな表情初めて見たな。


あの人とは小学校からの知り合いみたいだったけどとても仲良さそうには見えなかったな。


「夜ご飯できたよ」


「分かった」


「もうそんな時間か」



リビングに向かい椅子に座る。



「いただきます」


フォークで刺したサラダを口に運び咀嚼しながら考える。


「母さん」


飲み込んだ後何気ない口調で訪ねてみる。


「何?」

 

「何かに対して落ち込んでいる人がいたらどうやって元気づければいい?」


「友達が落ち込んでたらってこと?」


確認するような口調で聞いてくる。


「それでもいいや」


「まぁ落ち込んでる理由にもよると思うけど一緒に遊んだりとか」


「あなたの友達が何で悩んでるかわかんないからどうやったらいいのかなんて私もわかんないけど」


「少なくともそういう時は友達からいつ何を言われても大丈夫なように相談される準備をして送っていうより」


「楽しい時間を一緒に共有して辛い記憶を上書きしてあげるって言う方が意外と効果的だったりするのよ」


「どう今の母さんの言葉名言ぽくてかっこよかったでしょ!」


「それを言ったことで今の全ての言葉が台無しになったよ!」


そんな話をしていると家のチャイムの音が聞こえてくる。


仕事から帰ってきた父さんが中に入ってくる。


「どうした思い詰めたような顔して」


思い詰めたような表情をしていたわけではなくただどうして行けばいいか考えて頂けだったのだが、 答えが出ないことに苦しんでいたのでそう見えても仕方がないのかもしれない。


「友達と喧嘩でもしたのか?」


父さんが俺と向き合うように座り訪ねてくる。


「別にそういうわけじゃないんだけど…」


「知り合いが小学校の時の友達と会って、だけどその友達と中が良くなかつたみたいで、何て言うか落ち込んでるんだよ」


進藤のことだからあんなことがあっても明日になって学校に行ってみたらいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべて俺の隣の席に座っている光景が容易に想像できる。


いくら元気に振る舞ってたとしてもきっと心のそこではモヤモヤとした気持ちがあるはずだ。


何か役に立ちたい。


何か俺にできることをしてあげたい。


「母さんごちそうさま」


「あらもういらないの?」


「ああ」


「多分明日いつもより帰ってくるの遅くなると思う!」


「分かった」


俺の気持ちを察したのかどうなのかはわからないが、短く言って優しく頷いてくれた。


気分転換にと思い図書館から新しく借りてきた本をまだ読めていないことを思い出しその本を取り出す。


仰向けになり持っている本を開く。



内容はこんな感じだ。



2人の高校生が昔学校で起こった悲惨な事件の記憶を抱えながら日常生活を送っていたある日、再びその事件と向き合わなければいけなくなり2人でその事件を解決していく。


ダブル主人公の片方が明るいキャラクターで読んでいる最中何度か進藤の顔がよぎった。


「よしどうやって励ますかは明日考えるとして今日はもう寝よう」


次の日。



俺は鈴原に本を読んだ感想を伝えようといつも通り図書館に向かう。


「おはようございます」


「おはようございます」



「昨日の夜に少し前におすすめしてもらった小説を読んでみたんですけど、とても面白かったです」


「楽しんでいただけたなら良かったです」


「主人公2人が小学校の時に経験した事件が怒涛の勢いで解決していくストーリーは見ていてスカッとしました」


「そうなんですよ最初は何て言うか平坦な感じで何の発展もなく話が進んでいくんですけど最後の方は怒涛の伏線回収で面白いんですよ!」


表情はいつも通りの表情のまま変わっていないが口調は平坦な口調から心なしか楽しそうだ。


「また今度何か面白い小説とか本があれば教えてください」


「分かりました」


いつも通りの図書館での雑談を終えて自分のクラスへと向かう。



「おはよう!」


思っていた通り昨日の帰り道の出来事などなかったかのように爽やかな笑顔を浮かべ声をかけてくる。


「おはようございます」


「あの…」


「なんだ?」



「今日の放課後前に一緒に遊んだゲーセンに行きませんか?」


「分かった行こう!」


笑顔でうなずいてくれる。


いきなりどうしたという疑問を含んだ口調が帰ってくるかと思ったが、そんなことはなかった。 


それからしばらくして放課後の時間になり下駄箱に向かってみるとちょうど進藤が靴を履いているところだった。


「よしそれじゃあ行くか!」


嬉しそうに言って俺の横に並んで歩く。


「この前あのゲーセンに行った時は全部のゲームを遊べなかったんだよな」


「あそこのゲーセンは結構メダルゲームがいろいろありましたからね」


「まず最初にゲーセンに行ったら何やる?」


この前遊びに行った時は3つぐらいしか2人で遊ばなかったのでまだやったことのないゲームはたくさんある。


とはいえ他の場所のゲーセンにも同じ機械が置いてあったりするので、純粋に遊んだことのない機械となると減ってしまうが。


「そうですね少し分かりづらい場所にあったゾンビのシューティングゲームをやってみたいです」


「ゾンビのシューティングゲームか小さい頃は結構やってたけど最近はやってないなぁ」


そんな話をしながら歩いていると、 目的地であるゲーセンにたどり着いた。



中に入ってみると相変わらず天井にはピンク色のミラーボールのようなものが設置されくるくると回っている。



「あったあったあれだろう篠崎がやりたいって言ってたシューティングゲームって」


その機会に200円を入れると2人プレイでゲームがスタートする。


このゲームで使える武器は基本的にナイフとハンドガンだけ。


他の武器はステージに落ちていて敵と戦いながら拾っていくっていう感じだ。


小学校の時にゲーセンのシューティングゲームをかなりやっていたこともあって襲いかかってくる敵の動きを見て冷静に倒していく。


ゲームが終了し合計でゾンビを何回倒したのか集計が始まる。


「おいすごいぞ!」


横にいる進藤が俺の肩を軽く叩き上にあるゲームの画面を見ろと促してくる。


「2人の協力プレイのランキングで第3位だってよ」


「うまいこと俺をサポートしてくれたからですよ」


「…」


「どうした?」


言おうかどうしようか悩んでいるとそれに気づき疑問の言葉を投げかけてくる。 


「一緒に行ってほしい場所があるんですけど時間大丈夫ですか?」


「俺は別に構わないけど」



それから2人で電車に乗り目的の場所へ向かう。



「綺麗な海だな」


「最後にこの景色を見てほしいなと思って」


ここに来るとどうしても同級生と会った記憶がよみがえってしまうが海の景色が綺麗なのは間違いない。


「ありがとな」


浜辺に腰をおろし言ってくる。


「俺があれから落ち込んでると思って励ましてくれてたんだろう」


「いやそれは…」


なんと言葉を返していいか分からず言い淀む。


「元気を出してもらうために俺に何ができるんだろうって考えた時に、ゲーセンに一緒に行くこととここに連れてくることぐらいしか思いつかなくて」


「ありがとう元気出たよ!」



言っていつも通りの屈託のない爽やかな笑顔を浮かべる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る