第10話

「他人の私が首を突っ込んじゃいけないことだと分かってはいるんですがそれでも聞かせてください!」



「篠崎さんなんで怪我が多くなったんですか?」


今まで鈴原が静かではあるもののこんなに熱を帯びた口調で何かを言ってくることはなかったので驚く。


いたって真面目な表情で。


「前にも説明しませんでしたっけ階段で変な転び方をしてしまって」


「…階段で転んだだけではそんな怪我の仕方はしないと思います」


一瞬言っていいことなのかどうなのか悩んだ後言ってきた。


「だから自分でも不思議なんですよねなんでこんな怪我の仕方をしたんだって」


茶化す俺の言い方に疑問の目を向けつつもこれ以上何を聞いても無駄だと悟ったのかこう言葉を返してくる。


「私に話したくないことなのであれば無理に聞き出そうとするつもりはありません」


「あの本当に気にしないでください俺がただ1人で変な転び方をしただけなので」


この件に関しては誰も巻き込んじゃいけない自分の過去と向き合わないと!


そもそも俺が不器用なだけだ。


そんなことを考えていると。


自信なさげな小さな声で鈴原がこう言ってくる。


「私がどこまで役に立てるか分かりませんが何かお役に立てるようなことがあれば言ってください」


「私にもしかしたら何かできることがあるかもしれないので」


「目をそらしながら言う」


「篠崎さんがこの前私の相談に乗ってくれた時のように」


「あの時のことは気にしないでください俺は特に何もしてませんし」


「いいえそれでも…」


「他の人にとっては些細なことかもしれません、でも私にとってはとてもありがたいことだったんです!」


迷ったような表情をしながらもはっきりと口にしてくれたその言葉に少し驚く。


「そう言っていただけると嬉しいです」


「だから私に何かできることがあれば協力させてください」


「分かりました、その時になったら協力してもらうかもしれません」


そういったと同時に生徒たちが友達と歩きながらしゃべっている声が聞こえてくる。


「それじゃあ俺はそろそろ時間なので行きますね」


そう言って図書館を後にした。



自分の教室に向かって歩いていると目の前から歩いてくる1人の女子生徒に気づかずぶつかってしまう。


「あ!」


ぶつかったと同時にその女子生徒が手に持っていたプリントが周りに散らばる。


「すいません大丈夫ですか!」


「うん、大丈夫私もちゃんと前見てなかったから」


そう言っている彼女の見た目はふんわりとしたパーマがかかっていて少し明るめの茶髪の紙。


雰囲気はなんとなくおっとりとしている。


周りに散らばった紙を広い集め手渡す。


「ありがとう」


「いえこちらこそすいませんでした」


「私の名前は鏑木紅葉かぶらぎこうよう


「私君の隣の隣のクラスなんだこれからよろしくね」


「篠崎くん」


「よろしくお願いします」


言って差し出された手をなんとなく握る。


「それじゃあ私これから先生のところに行かなきゃいけないからこれで」


と言って去っていく。



「それにしても何であの人俺の名前を知ってたんだろう?」


疑問に思いながら自分の教室へと向かう。


どうやらあともう少しで朝のホームルームが始まるところだったらしくギリギリで席に着く。


もう何度か同じことを繰り返しているからなのか先生は特に何も言はずに出席番号順に書かれたノートを見ている。


「いつもギリギリではあるけど今日は特にギリギリだったな」


隣に座っている進藤が若干息切れをしている俺にそう声をかけてくる。


「ちょっとさっき歩いてる時に人とぶつかっちゃって」


「食パン加えた女子生徒と?」


もしかしなくても少女漫画の黄金パターンのことを言っているんだろうが、学校の中で食パンを加えながら歩いていたら大問題だ。


「そんな少女漫画の鉄板ネタのイベントがこんな学校の中で起こるわけないじゃないですか」


「わかんねえぞ突然いろんなことが起こるかもしれねえじゃねえか」


「学校の中で食パンを加えた女の子と出会ったとしても俺だったら絶対にその後に恋愛ルートに発展することはありません」


「わかんないじゃねえかもしかしたら向こうから好きですって告白される可能性だってあるんだぞ」


「そんなの俺の場合は天と地がひっくり返ったってありえませんよ」


「もしかしたら天と地がひっくり返った後誰かに告白されるかもしれねぇじゃねえか」


「もしそうまでしないと俺に彼女というものができないのであれば世界にとってものすごい大迷惑じゃないですか!」


「まあそこまでしなくてもいつか何かしらのイベントがあるかもしれないぞ」


「そういうものなんですかね」


苦笑いを顔に浮かべ言葉を返す。


「そこしゃべってねえで前向け!」


「すいません」


「はーい」


進藤は相変わらずめんどくさそうに返事を返しながら先生の方に顔を向ける。



午前の授業を終え特に何の理由もなく廊下を歩いているとさっき教室に行く時にぶつかってしまった女子生徒が目の前から歩いてくる。


「篠崎くん!」


名前を呼ばれた瞬間周りにいる男子生徒たちの殺意が混じった目線を向けられる。


「今少し時間あるかな?」


「この後の予定は特にありませんけど、それがどうかしましたか?」


さっきよりも殺意のこもった目線をひしひしと体で感じながら乾いた笑いを浮かべ答える。


「よかった少しついてきてほしい場所があるんだけどいいかな?」


「はいわかりました」


一体なんでなのか理由は全く分からなかったが今ここで断ったりなんってしたら周りにいる男子生徒たちから何をされるか分からない!



連れてこられた場所はグラウンド。


ここに来るとあの女子生徒にひっぱたかれた時のことを思い出す。


「あのなんで俺をこんなところに連れてきたんですか?」


「特に理由はないけどただ君と話してみたかったから」


進藤の時もそうだったが陽キャというのは全員みんなこんな感じで距離を詰めてくるものなのか?


「でも何を話せばいいんでしょうか?」


「そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ話すって言ったって私も大した話をするつもりはないし」


「君は普段は家で何してるの?」


いきなりのその質問に戸惑いながらも答える。


「家の中だと本を読んだりゲームやったり色々です」


こうして話している最中後ろを振り向かなくても数多くの生徒たちから殺意の目を向けられているのがわかる。


心なしか額から冷や汗が出てきているような気がする。


早くこの場所から逃げたい!


でもまあそれはそうだよな、こんな可愛い女の子と話してる男子生徒を見たら少なからず嫉妬の目線を向けられてもおかしくはない。


「どうかした?」


気がつけばその女子生徒が俺の顔を覗き込んでいた。


驚き慌てて距離を取る。


「何その反応面白い!」


からかうように小さく笑う。


それからも聞かれた質問に答えていきしばらく一般会話をしちょうど次の授業が始まる時間になりそれぞれ自分の教室に向かう。


自分の教室に向かっている最中の男子生徒たちからの視線がとても痛く刺さり気づかないふりをするのが大変だった。



「進藤さん聞きたいことがあるんですけど?」


「なんだ」


「鏑木紅葉という名前の女子生徒について何か知ってますか?」


「知ってるも何もこの学校じゃあかなりの有名人だぞ」


「って言っても俺もそういう噂とかに関しては疎い方だからはっきりとはわかんないけど、男子生徒から絶大な人気を誇ってるのは間違いない」


それは確かに言われなくてもわかる。


でも何でそんな学校の中で人気がある生徒がわざわざ俺なんかに声をかけてくるんだ?

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