第9話
「篠崎くん少しお話があるんだけどいいかな?」
わざわざ教室まで来て俺の名前を呼んだのは前にグラウンドの見えない木の影に隠れ俺のことを罵倒していた金井だ。
今回は知り合いらしき1人の女子生徒を引き連れている。
金井のその言葉を聞きクラスの中はざわめく。
「何々2人ってどういう関係?」
「ままさか付き合ってるとか!」
「それだったら普通に知り合いの女の子連れてこないで2人で場所を移動するんじゃない?」
「分かってないなあなたは、たとえ付き合ってたとしても恥ずかしいから友達2人にこうして一緒に来てもらってるんだよ」
「私は恋愛とか一切したことないからわかんないけどそんなもんなの?」
周りがあることないことを予想し勝手に話を広げていっている生徒たちの声が口々に聞こえる。
俺と金井が付き合うなんて絶対にありえない妄想をさも本当かのように語る女子生徒。
どうやら母さんが言っていた通りいくつになってもなのかはともかく女子は恋バナが好きらしい。
その噂話には一切気づいていないふりをし声をかけてきた金井に近づく。
「何ですか?」
俺はいつも通りの口調で尋ねる。
「ちょっと私についてきなさい!」
俺の耳元で小さくけど強い怒りを含んだ口調でそう言ってくる。
言葉には何も返さずただ頷きついていく。
連れて来られたのはこの前と同じグランドにある木の場所だ。
「さて何であなたが私にここまで連れて来られたのかはわかってるわよね!」
「けど最近は篠崎さんとはそんなに関わってないと思いますけど」
恐る恐る言葉を口にする。
「あなたの意見なんて聞いてない!」
怒りをあらわにした口調で言う。
「怒らせたらやばいの分かってるのに今回なんで怒らせるような真似をしたの?」
怒りをあらわにした金井の横にいる1人の女子生徒が嘲笑うような口調で言う。
俺は一瞬別に怒らせるつもりはなかったんですと言葉を返そうと思ったがその言葉を言ってもさらに悪化させるだけだと思い黙っておくことにした。
「あーだまり混んじゃったよ」
その女子生徒は冗談ぽく笑いながら言う。
「これは傑作だわ!」
女子生徒は続けて甲高い声で笑い声を上げる。
「とにかく進藤くんにあんたはもう近づかないで!」
「分かりました善処します」
「私の言ってる意味がわからなかった!」
「二度と近づかないでっていう意味だったんだけど!」
言った次の瞬間みぞおちに強い蹴りを入れられる。
とんでもない激痛に耐えながらも顔色一つ変えずその場に立つ。
「何こいつみぞおちに一発いいのもらったのに全くビクともしてない」
横にいる女子生徒が笑い声をあげながら言う。
びくともしていないわけではない。
こういうのに慣れているので平然を予想うのが得意になっただけ。
これで金井が気味悪いわって引いてくれればいいんだけど。
「なんで薄気味悪いあんたなんかが隣にいるの!」
この前ここに連れてこられた時と同じように明らかな怒りの感情をぶつけてくる。
「ていうか私思ったんだけどさ、男なんだから恋愛対象としてみられることもないしそんなに気にしなくても大丈夫なんじゃない?」
女子生徒が思い出したような口調で言う。
俺のみぞおちに蹴りを入れた金井がその女子生徒の方を向きギロリと睨む。
「おお独占欲強い女って怖い!」
仲間の女子生徒が若干煽るような口調で言う。
もうイライラを全てぶつけ終わったのか頭を強く掻きむしりながら大きなため息を1つつく。
金井が後ろに顔を向けたところでもうこれで終わりかと思い安堵のため息を漏らしたその時!
いきなり俺の方を振り向き勢いよく放ったグーパンが俺の顔面に直撃する。
「あんた行くよ!」
舌打ちをしまだ収まりきっていないのか怒りを含んだ口調で言う。
「うわぁさすがにこれはひどいわ!」
「さすがにこいつ脳震盪起こしたんじゃねえの!」
女子生徒はケラケラと笑い声を上げながら一緒に場を去っていく。
去ったところでゆっくりと体を起こす。
「今のは不意打ちで反応ができなかった」
もしかりにグーパンをされるんじゃないかと予想ができたとしても俺の場合は反応が間に合わなくてどっちにしろくらうからあんま変わんないか。
食らったその時は気づかなかったがどうやら顔面にグーパンをされた直前右フックもすぐさまくらったようで右の頬がじんじんと痛む。
「それにしてもこうして呼び出されるたびに攻撃を食らっていたらさすがに体が持たないな」
誰もいないグラウンドを歩きながらそんな言葉を漏らす。
「篠崎今までどこ行ってたんだ」
後ろから聞こえてきた声は進藤だ。
なぜか近づいてくると俺の肩に腕を乗っける。
「なんかこうしてしゃべるの久しぶりな気がするわ」
いつも通りの爽やかな笑顔で話しかけてくる。
「最近俺のこと避けてないか?」
一切変わらない口調でそう言ってきたのですぐに反応ができなかった。
「そんなことは…」
「そうか?」
「はい…」
同じクラスの女子生徒に目をつけられているなんて相談できない。
これは俺が何とかしないと。
「最近大丈夫か?」
「大丈夫って何がですか?」
「この前怪我してたみたいだったから何かあったのかと思って」
「この前のあれはただ階段から転んで怪我をしただけで何の心配もいりませんよ」
「じゃあ今回の怪我は何なんだ」
一瞬だけ爽やかな口調ではなく真面目な口調に変わる。
「これは顔面から落ちてとんでもないことになっちゃっただけです」
「とんでもないことになってる時点でやべえじゃねぇか!」
「いいえでも大丈夫です言うほどではないので」
「自分が問題ないならいいんだけど」
「そうだ貧血にはほうれん草がいいらしいぞ」
階段を歩いている最中に貧血を起こして足を滑らせ転んだというような話はしていないはずなのだが。
「教えてくれてありがとうございます」
それからしばらくしてお昼休みの時間になり特に何か目的があるわけではないが図書館に向かう。
中に入ると鈴原が真ん中の席でいつも通り本を読んでいる。
一度本から目線を外し軽く会釈をしてくれる。
同じように会釈を返す。
俺が隣に座ったところでいきなりこの前と同じように顔を両手で挟むようにして挟んだ顔を自分の方に向かせる。
「あの…」
「そのまましばらくじっとしててください!」
どうかしましたかと言おうとしたが言葉を途中で遮られてしまう。
しばらく見つめられていると自分の頬が暑くなっていくのを感じる。
しばらくしてようやくこれが恥ずかしいことだと気づいたのか鈴原の頬がみるみるうちに赤くなっていく。
「また怪我をしてるみたいなんで私の絆創膏を使ってください!」
少し慌てた口調で言う。
「そんな悪いですよ」
「気にしなくていいですからとりあえずこれを貼っておいてください」
鈴原にしてはやや強い口調で行って怪我をした頬に絆創膏を貼ってくれる。
「それにしても昨日もそうでしたけど一体何で怪我をしたんですか」
「とても階段で転んだだけには見えません」
俺が言おうとしていたごまかしの言葉を先回りされる。
「それは…」
「すいません攻めているわけじゃ!」
「どうしてなのか気になって!」
俺がしばらく黙っていると傷つけてしまったと思ったのか慌てた様子で謝ってくる。
「大丈夫です気にしてないので」
これは俺が解決しなきゃいけない問題なんだ!
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