デュアルシスターがお散歩



「お姉ちゃんお姉ちゃん」


 小柄な女性が振り返る。その視線の先には長身の女性。サラーク=トリルティアラとスノザート=トリルティアラである。


「どうしたのサラ?」

「2人でお散歩なんて久し振りだね」


 いつもは幼い子供達と共に歩いている。そしてそもそも2人だけになる時間帯は夜と朝しかない。なのでこうして昼間に2人で外出するということ自体が最近は無かった。


「……そうね」

「ミュイナのお世話も一段落したし、これからはお姉ちゃんもゆっくり出来るんじゃない?」


 サラークは微笑んでいる。これからは姉と共に過ごす時間が増えるので、静かだが暖かいゆっくりとした一時を思い描い


「次はあなたのお漏らしを何とかしなくちゃ」

「してないから!!!!」


 サラークは大声で叫んで茹でられたように深紅へ染まる。まるで心当たりがあるかのような反応であり、冗談のつもりであったスノザートは遊び道具を見付けてしまう。

 ニヤニヤしながら指でおなかをつんつんとつっつく。ぷにぷにで柔らかくて罪の感触がする。女性らしくなったなと感じる一方でそんな年齢でもお漏らしをしてるという疑惑が更に深まる。姉は声の鳴るおもちゃを弄る。


「ほんとぉでござるかぁ~」

「してないから!!!!!!!!!」


 若干涙ぐみながら否定……というか信じて欲しいという懇願、もしくは思春期のイヤイヤ期特有の憤慨。幼児退行をした妹もまた可愛いとスノザートはくすくす笑う。

 獣のようにうーうー唸るサラークが腕を振り回してぷんすかと怒っている。微笑ましく思うのは当然だろう。しかし問題はスノザートの微笑みであり通行人を悉く殺している。


「サラは可愛いねぇ」


 その一言で違う方向にほっぺたが染まる。テレテレのサラークを見てスノザートは内心でチョロいと感じた。チョは口にも出た。気を取り直した妹は腕を組んで怒っているアピールはしているが、表情はそこまでである。


「ふんっ、お姉ちゃんだってお漏らししてたくせに」


 子供レベル500億の解答をした愛しの妹に弄るのをやめて普通に接することにした。隣に並んで歩き始める。


「何年前の話かしら」

「子供の頃」

「もう大人だからしないに決まって……ん?」


 ここで気付いてしまった。子供の頃と張り合う。従ってその時と同様の何かを未だにしているということでは?あれ、とすると?


「………………………………………………ッ!?」


 一気ににやけて腰に手をかけてくる姉に悪寒を感じる。逃げようにも異常にチカラが強くて敵わない。どうしようもない。この姉の口を塞がないと自分が社会的な死を迎えてしまう。


「あらやだ奥様~、まだちびっこと一緒にお漏らししてるんですのぉ?」


 THE 図星であった。


「し!て!な!い!」


 そして大声で反論するからそれが丸分かりである。姉は愉しくなってきた。


「恥ずかしがることなんてないのに」

「恥ずかしくない!」


 恥ずかしくないのならどうして顔が真っ赤なんですか?スノザートはいぶかしんだ。


「じゃあ堂々としてればいいのよ」

「ん"に"ぃ"ーーーーーーーーッ!」


 遂に容量を越えてしまったらしい、ぴぃーっと逃走してしまった。どうせやり取りは見られているから荒療治ではあるが堂々としていて欲しい。そんな姉のちょっと捻子が取れた願い。

 ちなみにスノザートは料理が出来ない。


「ご飯までには帰って来てね~」

「今日は野菜炒めなんだからぁーーーッ!」


 1人できゃっきゃと喜ぶスノザートを背にしてサラークは走り去った。さようならサラーク、好きなだけ走って気分転換してきなさい。




 彼女は知らない。


 夜間、侵入者の脳髄を啜っていて、それで尿意が抑えられなくなっていることを。

 姉が自身の吐き出した不純物を舐め取っていて、その粘液で周囲が汚れてしまうことを。


 駆動する機械、告白告ぐ寒冷は未だにヒトの真似を保ち続けている。

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