第23話 心当たり

 駅近の中華レストランの店内を歩くのは青色のダウンを着たユズナだ。その足取りは重たい。

(会いたくないな)

「最近こないけど、なんで? 今日いつものところにみんないるから、おいで?」

 急に加奈かなからの呼び出し。既読をつけたので行かないわけにはいかない。

 角には見慣れた顔が並ぶ。バイトの先輩と同級生の仲間たち。ワイワイと話し合っている。そこに自分が行くと空気がおそらく変わるのだろう。

 ――先日のクレームの件はバイト内にも知れ渡っている。

 ユズナが着くと「あっ」と視線が集まる。

 同時に「待ってたよ!」「おそーい」といつも通りのテンションで迎えてくれた。

(どうして?)

 ユズナは明るい空気に戸惑とまどいながら席に座る。

 加奈が近づいて問い出す。

「最近、仕事こないのどうして?」

「えっと……」

「あのことならさ、ユズナ悪くないの知ってるよ」

「えっ」

「ほら、ゆいさん。話してあげて」

「うん」

 ポニーテールが似合う大学生の唯はことの顛末てんまつを話し始めた。

「少し前に変な人がサービスカウンターにきたんだ」

「変な人……」

「うん、その人がクレームがあるって。急にユズナの態度について語り出して。だから、『かしこまりました。本人にも確認してみます』と伝えたら急に態度が変わったの」

「態度?」ユズナは目を見開いたままたずねた。「もしかして、その人は女の人?」

「うん、若くて綺麗な女性。でもサングラスかけて怪しかったな。急に『確認はしなくていい!』と怒り出して、お客様ボックスにハガキを書いて投函とうかんしたんだよ」

 唯は自分の苦情も書かれたと思って、気になってハガキを取り出して読んでみると、「何これ」と目を疑ったそうだ。

 ユズナに対するクレーム内容が、その前に聞いた話から改竄かいざんされたデタラメだった、と言う。

「だからユズナは何も気にする必要はないよ」

 ユズナは暖かい仲間の励ましに目をうるませていた。同時にそれをやった女について心当たりが一つあった。

 スマホを取り出して水本絵梨香のホームページを開く。

「どしたの?」

 加奈は心配そうに声を掛けるが耳に入ってないようだ。

 指でスライドしていくと、その指が止まった。

「あっ」

 自筆のファンへのメッセージがあった。その筆跡には見覚えがある。

「ありがとう、みんな」

「え? どうしたのユズナ」

 立ち上がったユズナは走り出した。

(ユウタが危ない)

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