戦いの終わり

 鈴を鳴らすような、声。


「兄さん!」


 横から飛びだしたアオバが、体ごとシロウにタックルした!


 シロウが背中からたおれる。


 アオバはシロウの胸に顔をうずめたまま、はなさない。


「はなせ、アオバ」


「いやだ。やっと、兄さんに届いたんだから」


 顔を上げたアオバは、きっぱりと言いきった。


「ボクは、兄さんみたいになりたかった」


「は……?」


 シロウは言葉を失っている。


「キューターリーフになって、人の前に立ったときに思いえがいたのは、いつもボクの先を走っている兄さんだった」


 アオバは体を起こす。それから、人懐っこい顔で笑った。


「姉さんには人を支える強さを、兄さんには人を引っぱる強さを教えてもらった」


「…………」


「はなれても、敵になっても、兄さんはいつまでも、ボクがあこがれたシロウ兄さんだ」


 ガシャ……ン。



 シロウが剣を落とした。


「オレは、おまえなんかいらないって、言ったんだぞ」


「ボクは兄さんにここにいてほしい。きらわれたくらいで、はなしてあげないよ」


 アオバの笑顔に、シロウは目をそらす。


 そんなシロウのとなりに座ったのは、アカネ。


「それが、家族ですわ」


 と、アカネはシロウとアオバ、ふたりの肩に手を置いた。


「シロウ。相手をキズつけることを言ったとき、どうするのか。姉さんはもう教えましたよ」


 ね? と、アカネは首をかしげた。シロウは、なにも言えなくなってしまう。


 なんだ。シロウだって、私と同じ。お姉ちゃんには敵わないもんね。


 シロウは体を起こしてアオバに向きなおり、ぺこり、と頭を下げた。


「……ごめん、なさい」


 ちっちゃな謝罪の言葉に、アオバは手を差しだした。


「いいよ。シロウ兄さん」


 私はその様子を、はなれた場所から見まもっている。


「これは、国同士の戦争なんかじゃない。どこにでもある、きょうだいゲンカだし……」


 一気に体の力がぬける。


 これでもう、戦いなんてしなくていいんだ。


 シロウがゆっくり、アオバに手をのばす。ついに、戦争が終わろうとしていた……。


 瞬間。


「……、アオバ!」


「え」


 アカネが、アオバを突きとばす。



 一本の矢が、アカネの背中に刺さった。

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