変えられないし、いつまでも変わらない

「……いつも、そうだ」


 と、悲しげな声が聞こえた。


 それは、シロウの言葉だった。


「姉さん。あんたにとって、大事なのは王国と剣と、アオバなんだ」


「シロウ、なにを言って……?」


 とまどうアカネをさえぎって、シロウは言った。


「オレなんて、もういらなくなったんだろう?」


 そのあとシロウが指を差したのは、アオバ。


「アオバが城に来て、すべてが変わった! アオバは、オレよりずっと才能があった。勉強も、剣の修行も、なにもかも! オレをすぐに追いこしていった!」


 シロウは、自分の髪をぐしゃっとかきむしる。


「城にいると、毎日のようにカゲ口が聞こえてきた! 王国を背負って立つのは、姉さんとアオバのふたりだと!」


 アオバは、ただじっとシロウの言葉を聞いていた。


「兄さん。それが、国を出て行った理由なの……?」


「アオバ。国民に愛される人気者には、オレの気持ちなんて一生わからないんだよ」


「…………」


 アカネもアオバも、だまってしまう。


 その瞬間、ふたりにすきができる。シロウが、アオバとの距離をゼロにした。


「オレはずっと思っていた。おまえなんか……アオバなんか、いらないっ!」


 さけんで、シロウがアオバめがけて剣をふる。アカネも、アオバも、動けなかった。


 ただひとり……私だけは、アオバの前に飛びだした。


「ふっ……ざ、けんなぁあああ!」


 ばちんっ!


 私は、シロウのほおをひっぱたく。


 周りも思わず戦いをやめるくらい、大きな音が響いた。


「そんなこと、言っちゃダメっ!」


 無我夢中に、さけぶ。


「どんなことがあったって、家族に『いらない』なんて、言わないで!」


 目の前のシロウさんは、自分のほおを手でおさえている。一瞬だけぽかんと気がぬけていたが、すぐに怒りで顔を真っ赤にする。


「だまれ。おまえに、なにがわかる!」


「わかるし!」


 私は両手でシロウの肩をつかむ。もう、この人を悪の帝王だなんて思っていない。


 シロウは、ちょっとだけ意地っぱりで、不器用なだけの男の子なんだ。


「同じ家に生活するんだから、イラっとくることもムカっとくることもある。そんなの、王族だろうがなんだろうがいっしょなの! だけど……だけどっ!」


 すぅ! と息をすいこんで、続ける。


「好きでも家族、きらいでも家族! 変えられないし、いつまでも変わらない!」


 私には、弟がいた。アニメの中に消えた弟がいたんだ。


 家族のだれも信じてくれないけど。もう顔すら思いだせないけど。


 たしかに弟はいた。


 私はシロウにどなる。


「本当にいなくなったら! その言葉を、一生後悔することになるんだよ!」


 これは私が、私自身にずっと言いたかったこと。弟を失った私だから、言えること。


 目の前で家族を失うなんて、アニメの中でも見たくない。


「……うる、さい」


 シロウが、私の手をはらい、剣を振りあげる!


「うるさい、うるさい! 今さらオレは、もどれないんだよっ!」

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