リーフェスタ王国 対 コカゲ帝国

「急げ! 城門の守りを固めるんだ!」

「ケガ人を運べ! ゆっくり、ゆらすんじゃないぞ!」

「命に代えても、王国をお守りしろ!」


 私はアオバの部屋から、お城の外を見る。


 空には太陽が昇って、気持ちのいい朝のはずなのに、外から聞こえるのはどなり声ばかり。


 白いヨロイの王国兵と、黒いヨロイの帝国兵。どちらも言葉にならない怒号をあげて、ぶつかり、キズつき、たおれていく。


「ひでぇなコリャ! 戦争ダ、ホンモノの戦争だゼ!」


 と、ケラケラ笑っているのは、リドリィ。


「おい見ろよ、メイ! こんなの、現実世界じゃお目にかかれネェゾ!」


「リドリィ、うるさい。アオバが眠っているんだよ」


 私はリドリィをギロッとにらむ。


 リドリィは「オォ、こえェ!」なんて私を茶化して、アオバの枕元で羽の毛づくろいを始める。ほんっと、憎たらしい……。


 私の心を逆なでするように、リドリィは軽薄な声のまま言う。


「アオバを起こした方がいいんじゃネェのカ? このままじゃ、王国は負けるゼ?」


 王国が、負ける?


「なんでよ。コカゲ帝国の方が数は少ないし、あんなに弱々しい感じだったのに……!」


 私が食ってかかると、リドリィはベロンと小さな舌を出す。


「かんたんなことダ。帝国の兵士は、元は王国の民。メイ、オマエだったら、ボロボロになった味方と戦えるカ?」


 ……そうだ。


 コカゲ帝国は、リーフェスタ王国から人をさらって、兵士にしている。


 私はまた、お城の入り口を見おろす。


 悪の帝王の命令で戦っているのは、だれかの友達で、仲間で、家族なんだ。


「どこまで勝手なの、帝王……!」


 爪が手のひらにくいこむくらい、拳をにぎりしめる。


 ……でも、私がどんなに怒ったところで、戦いがうまくいくわけじゃない。


 黒いヨロイがひとつの大きなカタマリになって、だんだんお城に迫ってくる。王国が、ピンチだ……!


 そのとき。


 弱気な王国側の兵士さんをかきわけて、ひとりの少女が剣を片手に飛びだした。


 私は窓を開けて、身を乗りだす。

 友達のうしろ姿を、見まちがうはずがない。


「アカネ!」


 帝国の兵士たちに向かっていくアカネは、ドレスではなくヨロイを着て、ティアラもイヤリングも外していた。ただひとつ、首に下げたペンダントだけはキラッと輝いている。


「ここで、王国最強の姫騎士かヨ! 盛りあがってきたじゃネェカ!」


 リドリィが身勝手なことを言っている。


「アカネ、やめて! ひとりで立ちむかうなんて、危険すぎる!」


 私がさけんでも、届かない。


 アカネはそのまま、黒いヨロイにのみこまれた。


 ……ズゥン!


 轟音が、世界をゆらす。


 私が次に目を開いたとき、立っていたのはアカネただひとり。


 アカネに襲いかかった兵士たちは、次から次へと吹きとばされて、地面につっぷしている。


 私はごしごし目をこする。


「つ、強すぎでしょ、アカネ!」


 私の肩にとまったリドリィも、目をパチクリさせる。


「それに、相手を気絶させているだけダ。ひとつのケガもさせネェで勝ってやがル……」


「すごいし! これだったら、帝王にだって勝てる!」


 王国に希望が見えた。アカネがいれば、あの帝王にだって負けない!


「……だめ、だ」


 うしろから、声が聞こえた。

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