友人に立場なんて、関係ないと思います

「……メイ様のご家族は、とてもにぎやかで、楽しそうです」


 私の話を興味津々な様子で聞いてくれていたアカネ姫は、にっこりとほほえんだ。うれしいけど、はずかしい。


「みんな、さわがしいだけです」


「ご家族の明るさが、メイ様を作っていらっしゃるのですね。そんなご家族のひとりが、この近くにいるということなのですね……」


 私は大きくうなずく。気づくとアカネ姫に、あーちゃんのことも話していた。


「私はここで、弟を見つけなきゃいけないんです」


 お腹に力を込めて言う。アカネ姫は、首元のペンダントに触れた。


「メイ様も……」


「へ?」


「あ、いいえ。必要とあれば、何なりとお申し付けください。メイ様のためならば、ご協力を惜しみません!」


「…………」


 ていねいな言葉がむずがゆくって、私は思いきってこう言った。


「それ、やめてほしいです」


「え?」


「『様』なんて、堅苦しい呼び方しないでください。私のことは、メイ、だけでいいです」


 アカネ姫は、顔の前でぶんぶん! と手をふった。


「そんな! アオバのお客様にそんな無礼な言葉遣いはできません!」


「こんなにお話したのに、まだお客様でしかないんですか?」


 私がちょっとイジワルを言うと、アカネ姫はほっぺをぷくっとふくらませた。


「……でしたら、わたくしだって『姫』なんて、呼ばないでほしいです」


「でも、アカネ姫は正真正銘のお姫様ですし」


「友人に立場なんて、関係ないと思います」


 アカネ姫は試すように私を見る。


 私も負けじと見つめかえす。


「……アカネ姫が先に呼んでしてくれなきゃ、『姫』って呼びつづけます」


「わたくしだって、メイ様が『アカネ』と呼んでくれなければ、『様』をとりません」


「アカネ姫に変えてほしいんです!」


「メイ様が先に変えてくれたらいいじゃないですか!」


「がんこ、ですね」


「お互い様です」


 むむぅと見あって、私たちは同時にさけぶ。


「だから、アカネが変えて!」

「ですから、メイが変えてください!」


 そのとき、私たちは初めてお互いの名前を呼びすてにした。


「……ぷっ」

「く、ふふ」


 私が吹きだすと、アカネ姫……じゃなくて、アカネも肩をゆらす。


「こんなことで言いあらそうとか、意味わかんないし」


「えぇ、本当に。久しぶりに、こんなに笑いました」


「アカネがお腹抱えて笑うなんて、想像できなかった」


「メイのおかげで思いだせました。だれかと笑いあうことが、なにごとにも代えがたい幸せだったと……」


 そう言って、アカネは胸元のペンダントを開いた。ちらっとのぞくと、そこには三人の子どもたちが笑顔で写っていた。


「また、きょうだいみんなで……」


 アカネの声は、ガシャガシャ、というさわがしい足音に消えてしまう。


「アカネ様! おられますか!」


 廊下を走ってきたのは、近衛兵長さん。大あわてで、アカネの前に転がりこんでくる。


「て、敵襲です! コカゲ帝国からの侵攻が始まりました! 帝王を先頭に、王国になだれこんできますっ!」


 アカネはすくっと立ちあがる。


「兵長、アオバの部屋に護衛を十人つけます。これは命令です。アオバとメイを、守りとおしなさい」


「……はッ!」


 兵長さんは敬礼をして、走りさっていく。


 そしてアカネも兵長さんを追うように、私に背中を向ける。


「……メイ。お話ができて、うれしかったです」


 くるりとふりむくアカネは、最後に言った。


「どうか、アオバをよろしくお願いします」

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