日曜日、朝、ひとり。

「で。今日も今日とて、みーんなアニメのお仕事ね」


 朝食後、家には私だけしかいない。

 友達は家族でおでかけしているらしいけど、ウチはそうもいかない。


 アニメを作る仕事は、忙しいと土日も祝日も関係ないらしい。さらに、ここ数日はシュラバ? とかで、お父さんとお母さんは朝から晩までスタジオにこもりきり。お姉ちゃんも、収録だとか。


「そのおかげで、お休みの日にだらだらしていてもだれにも怒られないから、いいけど」


 ソファにダイブして、テレビをつける。アニメがやっていたらすぐチャンネルを変えて、でも他におもしろい番組もやっていない。


 ゲームでもしようかな、と、テレビの下の棚を開ける。


 カシャ……。


 ケースに入った一枚のディスクが、私の前に転がってきた。


「なにこれ?」


 ケースを開いて、文字を読みあげる。


「『可憐剣士キューティエイター 緑舞う王国の守り人 キューターリーフ』……」


 それは、お父さんたちがご飯のときにさわいでいた『キューター』シリーズのDVDだった。


 私は口をへの字に曲げる。どうせ、お父さんが「新作の参考に!」とか言って、棚の奥から引っぱりだしたにちがいない。


 ……そりゃ、昔は新作が出るたびにおもちゃやグッズをねだっていた。変身ポーズも決めゼリフも、カンペキにマスターしていた。


「でも、こんなシリーズあったっけ?」


 昔はあんなに好きだったのに、忘れてしまったのだろうか? いつも、あーちゃんと観ていたはずなのに。


「……知らなくっても、当然か。そのあーちゃんのことすら、忘れているくせに」


 と、私は自分に悪口を言う。


 この世界からあーちゃんが消えて、六年。私の中からも、弟の存在は消えはじめている。

 顔も声もぼんやりとしか思いだせないし、覚えているのは私が弟を「あーちゃん」と呼んでいたことだけ。


「そんなお姉ちゃん、いるわけない。本当、最低……」


 どんどん心が暗くなる。ネガティブな感情で体が重たくなっていく。


 昔は、こんな時こそアニメを観た。


 アニメの中のキャラクターたちは、私が悲しい気持ちでも、落ちこんでいても、いつでも変わらず笑顔でいてくれた。


 いつでも前向きで、まっすぐな姿に、私はたしかにあこがれていた。


「…………」


 気づくと、私はディスクをテレビに飲みこませていた。


 コーラとポップコーンをキッチンに取りにいく。もどってくると、ちょうど軽快なメロディのオープニングが始まった。

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