# 3 純潔の騎士 ⑩

 ギルドと王国軍の会合は進み、佳境に迫っていた。


 現状、良好な状態で言葉を交わせている、その大きな要因はトーリの言葉に純潔の騎士レジーナが賛同してくれたことだろう。あれがなければ話は進んですらいなかったはずだ。


 有志で集まったハンターたちには、今回の異常事態イレギュラーで二等級ハンターが死んでいることを伝えることになった。


 ギルド側としては恩恵者ギフテッドであるメリィは異常事態イレギュラーの対処に加わってもらいたいとのことで、承諾もしてしまった。


 それからは派遣されて来た王国軍に共有されていなかった異常事態イレギュラーの概要について、ギルド職員による事細かい説明が行われた。


 内容のほとんどは既に知っているものだったが、知り得ないものもあった。


「ショウヒさんとメリィさんによって保護された調査隊員リッタ・アリエルが意識を取り戻しました。記憶が曖昧のようで、調査隊に何が起こったのか詳しい事は分かりませんでしたが、魔物に襲われたようです。全長三メートル、筋肉質な体格、頭部口元には拘束具のようなもの、両手には鋭利な刃。話を聞く限りではオークとの共通点が多く見られます」


 ギルドは異常事態イレギュラー魔物原因について、明確な答えを得られなかったみたいだ。その正体も類似性が挙げられるだけであり、オークに鋭利な爪はない。


「ギルドの見解はどうなんだ?」

「我々ギルドとしてはオークの等級越え強化個体、もしくは突然変異、そのどちらかではないかと」

「……妥当だな」


 上から目線な感じが拭えないが、大方ラウルの言う通りで間違いない。ギルドの見解も順当そのもの。


 だが、突然変異とはお粗末だ。根拠も脈絡もない。そう決めつけてしまった方が楽なのだろうけど。


 だが、そのどちらにも当てはまらない部分もある。


「拘束具というのは?」


 続けてレジーナが、その当てはまらない部分について問う。


「オークらしき魔物の口を覆った器具のようなものだとしか。ただ、調査隊員リッタ・アリエルによれば装飾具のようなものではなかったと」


 そもそも、口に装飾具なんて付けるだろうか。

 拘束具と調査隊員リッタ・アリエルが言ったのなら、そう考えるのが正しいはずだ。


「オークの国から逃げて来た罪人だったとか?はぐれオークってそうじゃないのか?」


 トーリの言うことは的外れではない。しかし、何故だか馬鹿っぽく聞こえるのは「はぐれオーク」というもの自体が馬鹿馬鹿しい憶測に過ぎないからだ。


「そうじゃないわけじゃないかな」

「どういうこと?」

「そうだな……『はぐれオーク』っていう言葉自体、人間が勝手にそう解釈しただけなんだよ。王都から北西の方向にオークの国があるというのはトーリも知ってるよね?」

「あるらしいね。俺は行ったことないけど」

「そこが大事。歴史的な文献にオークの国がだけで、人間が訪れたという記録は残ってない。魔族が絶滅して、人間とオークで生存圏が分断され、何百年もの間、互いに干渉し合わないことで世界の均衡は保たれていて……」


 メリィに袖を引かれて正気に戻った。

 良くないなぁと真っ先に思うものの時既に遅い。


 魔族や魔物についての知識は一通り頭の中に入っている。

 代々受け継がれてきた研究資料や文献の多くを、故郷に定住するようになってから毎日のように読み漁っていた。子供の時に両親から教えてもらった以上の知識を最近になって知ったのだ。


 我ながら誰かに話したい気持ちが先行してしまったのかもしれない。

 まじで余計なことをしてしまった。


「詳しいのだな」

「頭良いんですね」


 「まぁ……」と返す言葉がそれしか見つからなかった。


「トーリ、そういうわけで『はぐれオーク』が自分の国から追放されたとか、罪人だったから逃げて来たとか、そんな理由付けは人間の憶測に過ぎないってこと」


 最初からこうして結論だけを話していれば良かったものを。いやでも、この結論だけでは説明不足な感じもする。


 やめよう。

 こんなことを考えてしまうのは悪い癖だ。それでいいと割り切る癖もつけないとダメだ。


「はぁーそうなのかぁ」


 理解したのか、してないのか、何とも分かりにくい言葉が返ってきた。だとしても理解したものと解釈してしまった方がいい。


「結局、行って相手にしてみなければ真実は分からないということだ。はぐれオークであれ、何であれ、やるべきことは一つ」


 向かい合う部屋の中央、テーブルの前まで歩み出たクリスさんは改めて目的の大前提を口にする。


異常事態イレギュラー魔物原因を討つことだ」

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