# 3 純潔の騎士 ⑨
人間の多くは生まれながらにして魔力を持って生まれる。魔力を持たずして生まれる人間もいないわけではないが稀だ。
魔物と人間とでは身体的な機能に大きな差がある。
フォレストウルフを例に出せば、狼の見た目通り足が速い。追いかけられれば簡単に追いつかれてしまう。
だから、魔物と戦う人間は自らの魔力を用いて身体を強化する。
体に魔力を流し、行き渡らせることで身体機能が大幅に上昇させる。ハンターの誰もが使用する初歩的な技術であり、それが出来ないくらい少ない魔力量では魔物とは戦えない。
そんな魔力を用いた身体強化をする必要がなく、生まれながらにして人間離れした身体能力を有している者を
その名の通り、神とか精霊によってもたらされた恩恵や祝福と考えるのが俗説となっている。
勇者がいい例で、膨大な魔力を有していたと言う。
そして、魔力を用いた身体能力の向上と
ここでもまた勇者がいい例で、
同じく魔王も
しかし、
人間より元から身体能力の高い魔族は恩恵が重なれば、人間離れしたとかのレベルを優に超越してしまう。メリィには魔力が無いため、魔力を用いた身体強化は出来ないが、そのデメリットを相殺するかのように
メリィが本気で人類に敵意を向ければ、その被害はとんでもないことになる。嘘も誇張も無しに、おれはそう思う。
肝心な部分を話していなかったが、何故、魔王とメリィは
メリィの
思うに、魔族は人間と魔物の中間的存在であり、メリィは特に人間に近い存在だ。人間を捕食対象としてしか見れない魔族の中でメリィだけは違う。捕食衝動を抑えられていれば、メリィは人間と一緒に暮らすことは可能なはずだ。
いや……人としても、魔族としても、いろいろと欠けているメリィには無理か……
メリィが
周囲を置いて、レジーナからの質問はエリナに移る。
「エリナ、君は自分の持つ魔力量の多さに自覚はある?」
「……他の人よりは多いと思ってましたけど、普通じゃないんですか?」
「当り前だ。君の魔力量なら、いくら魔法を行使しても
「確かに……
ラウルが魔法使いとして、どれほどの実力を有しているのか分からない。
だが、王国軍の魔法使いに「いくら魔法を行使しても
気になる。
おれにも、その
「お、おれはっどうなんだ!?」
食い気味に訊くトーリだったが、「普通だ」「普通ね」と二人から一蹴される。大袈裟なまでに愕然と落ち込むトーリをエリナが慰める。
「なぜ、三等級ハンターに過ぎない君が、そこまでの魔力を有しているんだ?」
言葉に少し棘のある言い方をするラウルに「知りませんよ、私に聞かれても」とエリナも負けじと棘のある返答をする。
「それより君、メリィと言ったか。
やはりと言うべきか、メリィが
「隠していて、何か不都合でも?」
「神に受けた恩恵は人類に還元する義務がある」
「
ただ、思うことは勝手で自由なことだ。
そういうことを言う人間に対して、特別悪い感情を持つことはない。
しかし同時に、受けた恩恵は還元するべきだと言う考え方も広がっている。魔王を倒した勇者が発端だろう。
望んで
力の持たない者の妬みにしか思えない考え方でもある。
そんな思想を、ギルド長は持つ人間らしい。
高圧的ではない分、他の街のギルド長よりは好印象だったが、横暴な思想を信じる人間だったとは。
「ギルド長たる者が、所属するハンターに戦いを強要するのは如何なものかと思いますが?」
誰よりも早く、助け船を出したのはレジーナだった。
「彼が言うように
果断とした態度で異見するレジーナの助け船は何とも心強い。いちハンターでしかない、おれからの発言ではギルド長をどうこうする力ははなかった。
派遣されて来た王国軍とは言っても、王国からの使者であることに違いはない。
ドリスのハンターズギルドを統べる者として、
「……すまなかった。私の考えを押し付け過ぎた」
潔く身を退いた。
戦力になる
王国との水面下での対立においても、
今は身を退いたくれたが、これからも執拗に迫って来ないとは限らない。ドリスのギルド長に知られてしまったのも痛いし、もうここにはいられないかもしれない。
一定の場所に落ち着きたいと言うのに、どうしてこうなってしまうのか。
「しかし、今回の
そこに関して、レジーナが口を挟むことはなかった。もとより参加するつもりだったので別にいいけど、何だかこれだと「還元する義務」を全うしているように思う。
そんなことないと自分に言い聞かせつつ「分かりました」と答える。
「ショウヒたちが参加するっていうなら、やっぱり俺も参加する。ショウヒを誘ったの俺だし、責任だってある。そうだろ、エリ」
感情任せではないトーリの言葉には思わず頷いてしまうような説得力があった。
「そうだけど………」
迷うエリナはおれとメリィに目を向けてくる。可能であるなら参加しないようにエリナの味方をしてやりたかったが、エリナ自身も分かっているようにトーリは本気で参加するつもりなのだ。
おれやエリナが何を言おうと、トーリの考えを変えることは出来そうにない。
「……分かったわよ……もうホント馬鹿」
「よしっ!決まりだな!クリスさん、俺たちも行きます!」
「おまえら……」
まるで血の繋がった弟の頭を撫でるように、クリスさんがトーリの髪をくしゃくしゃと豪快に撫でた。
「おまえらだけは俺が守ってやる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます