# 3 純潔の騎士 ⑥

「その大きな刀でバシバシ魔物を切り捨てるメリィさんに、私、感動したんです!同じ三等級でも、こんなに差があるんだって!」


 馬鹿みたいな憶測で勝手に焦っていた、ついさっきまでの自分を殴ってやりたい。


「下級の魔物なんだから、別にメリィに限った話じゃないでしょ」

「いえいえ謙遜し過ぎです!ショウヒさんなんて、メリィさんが戦ってる最中なのに魔物の部位を切り取ってましたもん!」


 柄にもなくと言えるほど、エリナとは長い付き合いでもない。だが、鼻息荒く誉め立てる、エリナは柄にもない姿をしているはずだ。


「二等級にも昇格出来るんじゃ」


 そこまで言って、クリスさんを連れて戻って来たトーリに気付いて言葉を切った。


「二等級に昇格って何の話?」


 言葉を切ったとは言え、トーリにはしっかり聞かれていた。訊かれたエリナは「何でもないよ」とあからさまな嘘をつく。


 おれとメリィが実力を隠してるとか、勝手に思っていそうだけど、実際メリィの実力は隠しているので何とも言えない。


 無闇に話したりはしないよ、と暗に示しているのかもしれない。エリナの事だから全然あり得る。


「トーリのことじゃないだろうな。まだまだ三等級のひよっこだ」

「そう言ってられるのも今の内だからなっ!」

「まぁ程ほどに頑張れ」


 目の前にするとクリス・エヴォードの体格の良さに圧倒される。


 前に殺した賞金首で二等級ハンターだったトーマス・エイドも体格が良かった。


 こっちは生まれながら体格が良いような感じだったが、今目の前にするクリス・エヴォードは鍛え上げられた筋肉によって大きく見えている。


 服越しでも分かる胸筋と肩の厚さ、血管の浮き出た太い腕は日頃から鍛練を欠かしていないことを証明している。


「クリス・エヴォードだ。君たちも有志で集まったハンターだと、トーリから聞いてるよ」


 圧倒される体格から物腰柔らかな声音が飛ぶ。そんなギャップにも圧倒されつつ、おれたちも名乗る。


「ショウヒと言います。こっちはメリィです。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしくな」


 交わす握手はおれの右手を包んでしまえるような大きさだった。思いっきり握られでもすれば、骨が粉々になってしまいそうだ。


 当然ながら、クリスさんがそんなことするわけなく、する理由もない。軽く握手を交わすとクリスさんはギルドへ目を向けた。


「話し合いはまだ終わらないか」


 討伐した魔物ウィップグルート部位を換金するためにギルドの前で待つおれとは違って、何やら乗り込んでしまいそうな雰囲気をクリスさんは醸し出している。


「クリスさんも何か用があるのでしたら、待った方が」

「いや、純潔の騎手レジーナが来ているのだろう。それならば私が行った方がいい」


 レジーナとは?

 そんなことを訊く時間もなく、クリスさんは門番を地に伏せ、ギルドの中へ入ってしまった。


 続いて見覚えのある背中が、ギルドの開いた扉に映る。


「俺たちも行こうぜ」

「ちょっと!ダメよっ!」


 エリの制止が効くわけもなく、クリスさんを追ってトーリもギルド内へと姿を消した。


「トーりを連れ帰しましょう!ショウヒさん!」

「えっ」


 エリナに腕を掴まれ、強引に引っ張られる。一緒に行こうと言うことなのだろうが、それはそれで問題になるだろ。


 振り払うことも出来たけど、エリナの手を振り払うことは出来なかった。見知った人の手を振り払うのって、中々どうして出来ないものだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る