# 2 背負った罪 ⑤

 エリナは底知れない少女だ。

 それともハンターズギルドの回し者か。


 ハンターズギルドは異常事態イレギュラーの対処を王国軍に任せたくないはずで、雇用する一等級ハンターが来れそうにないとくれば、所属するハンターを集めて異常事態イレギュラーを収束させたいと考えるのは不思議じゃない。


 しかし、好き好んで異常事態イレギュラーに首を突っ込むハンターはいない。報酬があるわけでもないし、死ぬ可能性だってある。参加するメリットが無いのだ。


 ギルドも、ハンター達を強制的に招集することは出来ない。それは横暴過ぎるし、あの紳士的に見えたギルド長がするばすもない。


 だから、ハンターズギルドは有志で募集した。


 命を賭けて魔物と戦うハンターだが、命を惜しまない集団ではない。あの森でハンター同業者が一日にして百人以上死んだ。その事実はハンターの中だけでなく、ドリス中に広まっている。そんな異常事態イレギュラーの起こる森に行きたくなんかないだろう。


 どれほどの数のハンターが有志で集っているのか、エリナに訊いておくべきだった。トーリ曰く、二等級ハンターのクリス・エヴァードが参加している。


 ドリスは商業都市と呼ばれるくらいには商業が盛んで、王都キャンベルでも大きな影響力を持つ有力な商会が数多く居を構えている。今ではハンターズギルドの支部が設立され、多くのハンター達で溢れているが、まだまだ発展途上だ。


 ドリス内のハンターは三、四等級の者がほとんど。


 ドリス周辺に三、四等級の魔物しか生息していないため、様々な場所から初心者ハンター達が集まって来るのだ。


 そんなハンター事情がある中、二等級ハンターのクリス・エヴァードはドリス出身だ。地元の人間から二等級ハンターが出たこともあって、クリス・エヴァードは一躍時の人となったと言う。


 異常事態イレギュラーの対処に参加することになってしまったが、クリスエヴァードがいるのなら大丈夫だろう。


 異常事態イレギュラー魔物原因は未だ見当も付かない。だが、三、四等級のハンターが徒党を組んだところで相手になるような魔物では無い。実際に多くの死人を出している。


 万が一が起きれば、おれはきっとメリィに頼んでしまうだろう。メリィが魔族だと言うことがバレる心配はしてないけど、メリィの実力を公にはしたくない。


 今のところは三等級で留まり続けるつもりだし。

 二等級や一等級に昇格すれば、受けられる任務も多くなるが、それと同時に周囲からは羨望の眼差しを向けられる。


 そうなればメリィが魔族だということを隠し続けるのが難しくなる。今だって、毎月の食事には苦労している。


 ドリスには賞金首犯罪者が多く潜んでいるので、まだ楽な方ではあるが。


 襲ってくる四等級の魔物———ウィップグルートをメリィが大太刀で切断し、死骸となった魔物それの身体から、おれは枝のように伸びる外器官を切り取って麻袋に詰める。


 もはや作業だ。

 木の枝を魔物化したようなウィップグルートは魔物の中でも最弱だ。炎魔法で引火させるのが定石で、勝手に炎上してくれるため近付く必要もない。


 近付かれても身体が硬いわけでもなく、木の枝を折るように切断可能だ。


 年中、ドリス周辺に生息しているため、討伐依頼も年中張り出されている。フォレストウルフの討伐依頼と比べれば天と地の差がある報酬でも、狩りまくることで何とか補う。


 殺すのはメリィがやってくれるので、おれはひたすら死骸からギルドへ持ち込む部位を切り取るだけ。


 先の異常事態出来事に関するあれやこれやについて長考してしまうくらいには気の緩んだ狩りだった。


 麻袋がパンパンになったところで引き上げ、昼を少し過ぎた辺りでドリスの街へ帰って来てしまった。


「メリィ」

「なに?」


 遅めの昼食を取りながら、これからの事を伝える。


「今からさ、あの森に行きたいって言ったら一緒に来てくれる?」

「やっぱり殺しにいくの?」

「いや、そういうわけじゃないよ。殺すのはメリィじゃない方がいいし」

「いいよ。わたしはショウヒについてく」


 そうして、おれたちは異常事態イレギュラーの起こる森へ五日振りに足を踏み入れた。

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