# 1 生存けん ②

 王都キャンベルを統べる国王の家系は、かつて勇者を輩出した家系だ。


 長年の間、人類と敵対していた魔族。

 その魔族を統べる魔王を殺した勇者は人類の救世主となった。


 勇者が現れる前から、王都キャンベルは人類最大の生存圏として存在していた。

 事実を言えば、王都キャンベルを建国した国王の家系から勇者が出たわけじゃない。勇者は平民出身だったと言う。


 魔王を殺した勇者をキャンベルの国王に即位させ、国王の家系に勇者の血筋が混じったから「勇者を輩出した家系」と大々的に名乗っている。


 おかしな気もするが、そうした肩書きは国王としての威厳を維持するのに役立っている。対外的にも、魔王を殺した勇者を知らない者はいない。


 勇者が魔王を殺して数百年の時が経つ。

 魔王の死をきっかけに、人類は勇者に導かれ、魔族を根絶やしにした。


 この世界には人間の他にも多様な種族が存在する。同様に敵対する魔族の他に魔物と呼ばれる、人類他全種族を獲物とする怪物がいる。


 敵対するのは魔族だけじゃない。

 だが、人類は魔族を絶滅させた。


 その理由は明白だった。

 魔族は人間を食べる。魔族は人間を補食対象とし、人間を補食するために人間と同じような姿をしている。


 魔族は人間を殺すために存在していた。


 人間と魔族は分かり合えない。同じ姿をしていて、同じ言語を介そうと魔族は人間を食わなければ生きられない。


 魔族は生きるために人間を補食する。

 だから、人間も生きるために魔族を絶滅させた。


 勇者が亡くなっても、その意志は受け継がれた。勇者の率いた王国軍だけでなく、一般の人間も魔族狩りハンターとして、魔族の根絶に奮闘した。


 そして魔王の死から、数百年の時を経て、魔族は絶滅するに至った。


 どうして、魔族が「絶滅した」なんて断言出来るのか問われれば、それは魔族の持つ習性からだ。


 まず、魔族は人間を食べなければ生きられない。人間が食べるような植物や動物肉、魚などは魔族も食べられるし、栄養として身体に蓄えられもする。


 しかし、魔族は人間を食べなければ死んでしまう。周期は最大で月に一回。成人した人間をまるごと一人。


 これが最低だ。

 月に一度、人間を一人補食し、その他の日は人間同様の食事で栄養を取る。


 そうでなければ死んでしまう。

 しかも、これは最低ラインであり、人間の補食が月に一度だと、魔族は常に空腹状態だ。大人しく我慢していられるわけがない。


 そして魔族はある種、動物的とも言える。

 人語を介せるほどには人並みの知能が備わってはいるものの、人を殺し、補食し、誰にも見つからないよう隠蔽することはない。


 補食する度に、毎回そんなことしていられないからだ。


 そうして徐々に魔族は人間に狩られ続け、いつしか魔族による被害が無くなった。魔族は人を食べなければ生きられず、もう何百年と魔族による被害は報告されていない。


 ということは魔族は絶滅したと言っていい。

 そういう解釈だった。


 今を生きる人間は魔族の存在を遥か昔、歴史上に存在していたもののように捉えている。間違ってないし、事実そうだろう。魔族なんて歴史上の存在。その方が、人間を食らう魔族なんていない方が、人類にとって都合がいい。


 人類は魔族を絶滅させた。

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