第6話

「んなの、放っておきゃ治るって」

「駄目だってば。ほら、見せて!」

「ッ痛ぇな、手当てすんなら、もっと優しくしろよ」

「あ、ごめん」


 半ば強引に斗和の腕を掴んだ恵那が袖を捲ると、服に隠れていた腕はだいぶ傷が深そうだった。


 擦り傷というより切り傷みたいなその痛々しいそれに思わず目を覆いたくなる恵那。


「消毒液は滲みそうだから、水で洗い流す方がいいかも……」


 言って恵那はもう一つのミネラルウォーターのペットボトルを開けると、斗和の傷口に水を流していく。


 そして、擦り傷には軟膏を塗り、傷全体を覆えるよう、包帯を一生懸命巻いた。


「……とりあえず、これは応急処置って事で……ちゃんと病院で手当てして貰ってね?」

「…………ああ」


 ちょっと不恰好な包帯の巻き方ではあるけれど、ひとまず傷口を覆えた恵那は満足して、他の擦り傷にも軟膏を塗っていく。


「あ、氷も持ってくれば良かったね……腫れ、冷やした方がいいのに……」


 そして、殴られたのか酷く腫れた頬に視線を移した恵那は、氷を持ってきて冷やした方が良かったと小さく項垂れた。


「良いって。こんなん良くある事だし。いちいち気にしてらんねぇよ」

「…………」


 気落ちしている彼女を励まそうと言葉を掛けた斗和だったのだけど、その言葉は恵那をより一層悲しませただけだった。


「……どうしてこんな事に? 喧嘩?」

「……まあ、そんなとこ」

「……良くある事って言うけど、こんな怪我をいつも?」

「今日はちょっとヘマしただけだって。相手が多かったからやられた、それだけだ」

「……どうして、そんな危ない事するの? この怪我だって、大した事ないって言うけど、痛いでしょ?」

「痛くねぇって」

「嘘! さっき私が触ったら痛がったじゃん」

「あれはお前の力が強かったんだよ」

「……それは、ごめん……」

「だから別に気にしてねぇよ。つーか、その顔止めろって。そういう顔されると、俺が何かしたみてぇに見えるだろうが」


 またしても恵那が悲しげな表情を浮かべた事を斗和が指摘すると、非難されたように感じたのか更に落ち込んでいく。


「……ごめん」

「――だから、別に怒ってるわけじゃねぇよ。ただ、そういう顔されると、どうすればいいか分らねぇんだよ。とにかく、いちいち落ち込むな」

「……うん」


 何だか気まずい空気が流れてしまい、どちらもそのまま黙り込んでしまう。


 そんな時、


「斗和さーん!」


 どこからか斗和を呼ぶ声が聞こえて来て、その声の方に恵那が視線を向けると、


「斗和さんこんな所に……って! え? ええ!? もしかして、キミ、えなりん!?」


 二人の元へやって来たのは、明るめの茶髪でナチュラルマッシュスタイルの人懐っこそうな男の子で、恵那たちと同じ学校の制服を身に纏っている。


 そんな彼は恵那の姿を見るなり目を見開いてそう叫んでいた。

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