第6話 お弁当の理由

 弁当を食べ始めて数十分が経過した。

 この想いが重すぎるお弁当は味も絶品でマジで金が取れるレベルだ。

 煮物は程よく味が染み込み、魚や肉は柔らかく、下処理などもしっかりとされているので臭みも全くない。


 見た目で判断するのもあれだけど……加賀ってギャルっぽいから、料理苦手に見えたけど、得意なんだな……。


(なんにしてもよかった……これでまずかったら、もう本当にただの拷問だった……この弁当が生まれる経緯を聞いたら、まずくても食べざるおえないし……)


「あっ、さくらちゃん、この栗きんとん美味しいね」


「へへーん、それ自信作なんだぁ。裏ごしをしっかりして、栗の食感が味わえるようにざく切りの栗もたっぷり加えて作ったの」


「へぇー、私でも作れるかなー」


「えっ! ほんと! 一緒に作ろうよ!」


「でも私料理あまり得意じゃないから……あ、あははは……」


 なんか意外だな……烏丸って料理とか得意そうな感じ……いやそうでもないか。

 できるOLみたいに全て外食で済ませるイメージもある……。


「大丈夫、大丈夫。そんなに難しい料理じゃないしっ! それにお姉ちゃんにも無理やり手伝わせるから! 洗い物とか」


「お姉さんが不憫すぎるだろ……」


「うん? お姉ちゃん喜んでやると思うけど。むしろこう言うの頼まないといじけるし」


「妹好き過ぎじゃね……」


 お姉さんへのお礼は考えておくか……流石にこの弁当はスルーできないし……


「わああああ! このお茶も美味しいね!」


「でしょ! でしょ! 先輩と美恵先輩のためにとっておきのお茶を用意したの!」


 それにしても……加賀と烏丸は昨日何を話したんだ? ……明らかに昨日よりも仲良くなってる気がする……。

 僕としては仲良くなるのは大歓迎なんだけど、2人ともこの二股のお試し期間をどう思ってるんだろうか……。


 ちょっと聞いてみるか。


「なあ、話をぶった切って悪いけど、僕が二股のお試し期間をしてることをどう思う?」


「? 先輩、改まってどうしたの?」


 質問の仕方が悪かったのか、加賀はきょとんとした表情で首を傾げた。

 一方烏丸は僕が言いたいことを理解したのか、悪戯っぽく笑う。


「くすっ、高円寺君は私たちのことが心配なんだって。ほら、二股のお試し期間をする子なんて珍しいから、周りに色々言われるじゃない? それについて私たちがどう考えてるか気になるんだよ」


 まさにその通りだけど……心配してるなんて面と向かって言うなんて恥ずかしいから、黙っていよう。


「くすっ、照れちゃって可愛い。可愛いなぁ」


「そっか……先輩心配してくれてるんだ……そっか、ふふっ」


「い、いいから、どう考えてるんだよ」


「うーん、わたしは先輩たちと一緒なら何を言われても気にしないけどね。あーでも! 二股のお試し期間を認めてるからって、軽い女だと思われるのは我慢できない! わたしが愛してるのは先輩だけなのにっ! もし他の男が言い寄って来たらぶっ飛ばす!」


 加賀は頬を膨らませて怒る。本当に嫌らしく、顔には強い嫌悪感が出ていた。

 そして烏丸が加賀に便乗するように頷く。


「そうそう。私たちは浮気は許すけど、浮気はしない都合のいい女なんだから」


 それいいのか……いや男としては夢のような提案だけど。


「うん? あれ……そ、それはダメっ!」


 その時、烏丸の言葉が引っかかったのか、加賀が慌てた様子で否定した。


 その顔から余裕がないように感じられる。


「わたしは絶対に浮気なんてしないし、先輩も浮気なんてしちゃダメっ!」

 

「えっと……僕今現在絶賛二股のお試し期間中なんだけど……」


「美恵先輩はいいのっ! でも他の女の子はダメっ! 自分でもわかんないけど……なんか嫌っ!」


「わ、わかったよ。浮気絶対にしない」


 なるほど……感覚っぽいけど、加賀には加賀の考えがあるんだな……。


「烏丸もそれでいいか? まあ、僕が浮気ができるかどうかは置いといて……」


「ふふっ、私としては女の子が増える分には別にいいんだけど……まあ、さくらちゃんに嫌な想いをさせてまで尊重する意見じゃないから安心して」


「先輩……美恵先輩……」


 烏丸は優しく慰めるように加賀に語りかける。

まるで妹を慰める姉のようだ。

 こいつら、互いに昨日初めて話したって聞いたのに……本当に一晩で仲良くなったよな……。


「なあ、昨日僕が帰った後何を話したんだ?」


「えっ? ふーん、高円寺君、気になるんだ。ヒントを言うなら制約と誓約かな?」


「……お前はどこのハンターだよ」


「み、美恵先輩ダメっ! 先輩には秘密なんだからっ! ぜ、絶対にダメだからねっ! は、恥ずかしい……」


「くすっ、そうだったね。ごめんね」


 頬を染めて恥ずかしそうにしている加賀と悪戯っぽく笑う烏丸。


 ……どうしよう。話についていけてない。

 まあ、いいか。僕に言えないこともあるだろうし、気になるけどこの辺はスルーしよう。


 それよりもこれ以上騒ぎが大きくならないように2人にお試し期間のことを口止めしないとな……もう手遅れな気もするけど……。

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