第16話 ユースラ入街

 街への帰り道の最中、洞窟温泉で手に入った従魔魔法の効果を確かめる。



【従魔魔法:魔物と従魔契約を結ぶ。従魔のステータスが上がる。従魔を小型化できる】



 どうやら連れている魔物のステータスを上げることができる魔法のようだ。小型化というのを試してみたかったので、俺はトテトテに従魔魔法を使ってみることにした。鑑定魔法の時にも思ったのだが、魔物に魔法をかけるというのは普通に魔法を使うよりも難しい。おそらく魔物側が魔力で抵抗しているのだろう。今回の場合はトテトテが大人しくしてくれていたので簡単に使えた。


「キュポッ!」


 従魔魔法をかけたトテトテに小さくなるように念じると、その白く丸い巨体がみるみる縮んでいく。小鳥のようになったトテトテを肩に乗せてやると、嬉しそうにもふもふの身体をこちらの頬に擦り寄せてくる。


 街の中でどうやって連れ回そうかと思っていたが、このサイズなら問題無さそうだな。


 俺が従魔魔法についてあれこれ考えている間も、ユララは顔を真っ赤にして愚痴っていた。先程からずっとそうだ。


「バカだったわ……死にたい……」


 戦いの後のテンションでうっかり一緒に温泉に入ってしまったことが尾を引いているらしい。


「言っておくけどユララから脱いだんだからな」

「分かってるわよっ! 戦って命が助かって傷が治ってなんか嬉しくておかしくなってたの! ……ねえ、もしかして、見えてた?」


 ユララは無防備だったので何か見えていてもおかしくなかったが、その心配はない。なぜなら。


「洞窟の壁を見るのに夢中になってたからな。ユララのほうは一切見てなかったから安心してくれ」

「それはそれでムカつくわね……!」

「そう怒るなよ。裸で一緒に温泉入った仲だろ?」

「次にその話でからかったら叩き斬るわよっ!」

「ごめんて」


 宝剣グレンユースラを振り回すユララの攻撃を避ける。何度か剣を振り回して落ち着いたのか、次にユララは頬を染めながらこちらを上目遣いで見てくる。


「でも……ちょっとは、あたしのこと、意識したでしょ?」

「トテトテ、可愛いねえ……もふもふだねえ……」

「嘘でしょ……? あたしと温泉入ってる時よりも魔物とイチャついてる時のほうが楽しそう……!?」

「フヒヒ……小さくなっても可愛いねえ……」

「ジン、魔物を愛でてる時はそんな感じになるのっ!?」


 小さくなったトテトテと戯れながらユララと話しているうちに、あっという間にユースラの街に着いた。




 冒険者ギルドで討伐依頼の報酬を貰わない限り、俺は文無しだ。なのでまだユースラの街には入れないのだが、あとで払う約束をして入街料をユララに立て替えてもらった。ブルドッグみたいな門番の人が俺に気付いて声をかけてくる。


「お金を出してくれる女の子が見つかったんだね。良かったね」


 ヒモみたいな扱いなのが若干気になったが、まあ現状は似たようなものなのでぐっと我慢する。


 街に入ると、すぐに人の波でごった返す大通りが目に入った。


「うははっ」


 行き交う人々を見ているだけでも楽しい。半分ぐらいはただの人間、もう半分ぐらいは様々な種族が歩いている。身長が俺の倍はありそうな巨人、大きく白い翼の生えた翼人、猫のような耳と尻尾を生やした剣士、耳が長い麗人はあれはエルフだろうか? 異なる種族同士が和気あいあいと喋りながら歩いている。


 大きな種族でも歩きやすいようになっているのか、大通りの横幅は広い。これならトテトテを小型化しなくても歩けたかもしれない。


 通りには食料品や雑貨、武器屋から魔道具屋などの店が並んでいる。屋台で売っている焼けた肉の匂いが俺の鼻をくすぐった。匂いに釣られてふらふらと俺は屋台が立ち並ぶ一角に行こうとするが、ユララが呆れたような声で俺を止めた。


「ちょっとジン、あなた文無しでしょ?」

「うぐっ」


 値段を見ると2~3エルニケダラーもあれば飯を買えそうだが、今の俺にはそれすら無いのだ。先に討伐報酬を貰って資金を調達しなくてはならない。


「早く行くわよ」


 ユララの案内に従って、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。

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