第17話 冒険者ギルド

 異世界の冒険者ギルド、というと荒くれ者たちの溜まり場を想像してしまうが、ユララに連れられて来た場所はなごやかな雰囲気の場所だった。大通りと同様に色々な種族の冒険者たちが楽しそうに談笑している。大きい種族が入ることも想定しているのか、入り口は大きく天井は高い。


 俺を先導するユララに何人もの冒険者たちが声をかけてくる。「よう、ユララお嬢様、今日は彼氏連れかい?」「ユララちゃん、この前はありがとー」「ユララお嬢さん、あまり外に出ると親父さんが怒るぜ?」ユララは一人一人に笑顔で答えながら手を振る。「彼氏じゃないわよっ!」「気にしないで」「お父様は関係ないわっ!」どうやら中々に顔が広いようだ。


 受付が空いていたので、ユララが受付嬢に討伐依頼の紙を提出して、討伐が済んだ旨を伝える。


「討伐が終わったわよっ!」

「はい、おめでとうございます。魔物の死体はお持ちですか?」

「あるわ!」

「ではこちらにどうぞ」


 ユララは受付嬢に別室へ連れられていった。討伐完了の証明として、魔物の死体そのものか、魔物から取れる魔石を提出する必要があるらしい。受付でゴブリンの死体を山積みする訳にもいかないので、冒険者ギルドに備え付けの解体場に移動するわけだ。


 解体場に行くユララを見送ってから、俺も別の要件を済ませることにした。先程とは別の受付嬢に声をかける。


「冒険者ギルドに登録したいんだが、お願いできるか?」

「はい、問題ありません。お名前、レベル、種族を鑑定しますので、鑑定阻害の類の魔法を使用している場合は解除して頂いてもよろしいでしょうか?」

「そういうのは使ってないと思う。大丈夫だ」


 アメリアは冒険者ギルドに行かないとステータスは確認できないと言っていたな。つまり冒険者のステータスを鑑定できる魔法使いが冒険者ギルドにはいるってことか。魔物にしか鑑定魔法を使ったことは無かったが、人間にも使えることは覚えていたほうが良さそうだ。


 誰か別の魔法使いを呼んでくるのかと思っていたが、受付嬢はそのまま俺に手をかざし、鑑定魔法を使ってきた。


湯通堂ユツドウジンさん、レベルは13ですね。本来は登録したばかりの冒険者はランクEなのですが、レベルが高いためランクDに登録致します」

「そのランク……ってのは、高ければ高いほど難しい討伐依頼を受けれるってやつだよな?」

「はい、その通りです。ランクD冒険者はランクDまでの依頼を受けることができます。実績を積む、もしくはレベルが大幅に上がった時などに登録ランクも上げさせて頂きます」


 なるほどね。この世界でのレベル13というのがどの程度のものなのかも、これで何となく分かった。ランクDに分類されるぐらいだから、下から数えたほうが早い強さなのだろう。


「こちらのギルドカードをどうぞ。依頼報酬を貰う時に必要ですので失くさないようにしてください」

「ありがとう」


 俺の名前と登録ランクが書かれたギルドカードを渡される。かすかに魔力が籠もっていることから、何らかの魔法が使われていることが分かった。偽造は難しそうだ。


「どんな依頼があるのか見てみたいんだが、どこで見れる?」

「あちらに依頼掲示板があります。ご自身のギルドカードをかざすとランクに応じた依頼が確認できる他、依頼内容を書類に転写もできますのでご活用ください」


 受付嬢が手をかざしたほうを見ると、他の冒険者が依頼を見ているところだった。どうやら魔石のようなものにギルドカードをかざすと、魔法によるメッセージウィンドウで依頼一覧が表示されるようだ。空中にメッセージウィンドウが浮かんでいる光景は異世界というよりもゲームみたいだな。ステータスウィンドウがある時点で今更な感想ではあるんだが。


 ユララが戻ってきたら一緒に依頼を確認してみるか、と考えていると、しわがれた声が上から降ってきた。


「あんたがビッグゴブリンを倒した冒険者かい?」

「おう……うおっ!?」


 驚いたのは、老婆が俺を見下ろしていたからだ。でかい。2メートル半はありそうだ。白髪としわのある笑顔から老人だと判断したが、筋肉が盛り上がった肉体は若々しい戦士のようにも思える。


 老婆の後ろからユララがひょっこりと顔を出した。サイズ差がすごくて遠近感が狂いそうだ。この老婆の種族は巨人だろうか?


「失礼なやつだね。あたしゃれっきとした普人族だよ」

「まだ何も言ってねえだろうが」


 強烈な違和感があったのに見逃してしまったのは、老婆の発音があまりにも自然だったからだ。ユララが首を傾げて、初めてミスに気付く。


「あなたたち、何語で話しているの?」


 カカッ、と老婆が楽しそうに笑う。


。ちょっと場所を移そうかい、異世界転移者」

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