(自由人+自由人)×20年=?

 毎日のように関係者と連絡をとり、ひたすら電話を待つこと2週間。


海外の知らない番号から電話が来た。

慌てて電話に出る私。


「彩香?俺!」

「今どこに住んでるの?」


「え!大輔?」

「生きてたの?」


「酷いなぁ!たった2週間連絡取れなかっただけで」


彼のお母さんにも聞こえるようにスピーカーにする。


「何言ってるの?行方不明だって連絡が来て、私達はあちこちに・・・」


泣き崩れてしまった。


「母ちゃん?」


「心配かけてごめん」

「パスポートもパソコンも無くして、身元不明だったんだよ」


「で、今、日本大使館の人が身元確認したいっていうから」


電話から、知らない人の声が聞こえてくる。


「今の声は、吉本大輔さんの声に間違いありませんか?」


「声でいうと・・確証はありませんけど、たぶん」


曖昧な返事をしてしまったせいか、


「身体的特徴を教えて下さい」


と聞かれた。


「175センチ痩せ型」


「右側頭部に傷があってハゲがあります」


「右側頭部は、怪我の影響で確認は無理です。後は?」


「怪我しているんですか?」


ふたりで慌てる。


「後は、右膝に手術の痕があります」


「右足は、救助の際に切断しましたので確認できません。その他は?」



切断?

ふたりで青ざめ、震えが止まらない。



震える声で、私は言った。


「お尻に、ヤモリのタトゥーがあります」


電話のむこうから、「イテテ」という声が聞こえてくる。


「確認できました」

「こちらの病院は、負傷者で溢れかえっており、明日受け入れ先のスペインの病院に移送します」

「そこで改めて、確認していただきたいです。

どなたか来られますか?」


「2人で行きます」


「体大丈夫?」

「もう安定期なので、大丈夫です」


「えっ!何?安定期?何のこと?」


「ばか!」


電話が切れてしまった。



 彼は、被害の大きかった地域に早い段階で入れた為、ボランティアで救助を手伝っていたということだ。

そこで、二次災害に遭い、建物の下敷きになり、救助されたのは翌日。

顔や頭も怪我をしており、右足は瓦礫に挟まれ切断するしかなかった。

発見時意識もなく、その後感染症にも罹り、身元を証明する物も手元になく、生死を彷徨うこと10日間。

野戦病院と化した近隣の病院からトルコ国内の他の病院に運ばれたところで、やっと名前を聞かれたそうだ。


それまで、彼は、他の負傷者の治療を優先させる為、自分からは何も語らなかったらしい。

彼の経験からの判断だ。



 翌日、私と彼のお母さんは、スペイン行きの飛行機に乗っていた。



 彼は右足を失ってしまったが、

生きていた。

私は、それで十分だった。


私のお腹の中には、彼との赤ちゃんもいる。



(自由人+自由人)×20年=0


ではなかった。

そう信じよう。




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(自由人+自由人)×20年=0 かりんと @karinto0211

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