(自由人+元自由人)×19年=0

 その後、私は、ハワイ、ヨーロッパ、オーストラリアなどで仕事をする。

なんだかんだ言って、ガツガツ働いている。


一方、彼は、海外青年協力隊やユニセフや国境なき医師団などで活動している人達と出会い、出向く場所はほぼ過酷な場所になった。

今どこにいるのかさえわからない時もある。



 付き合い始めてというか、今も付き合っているのかさえもわからないまま、19年が経った。


私は仕事を辞めた。

東京に戻り、語学力を活かして、英会話の先生をしたりしながら生計を立てていた。

最近は、知り合いになった外国人を連れて、もっぱら国内旅行だ。


 彼は、そんな私の家に、図々しくも、時々帰ってくる。

そして、バイトしながら、人に頭を下げてお金や物資を調達しながら、また過酷な地に出かけていく。

そんな彼のやっていることは、尊敬するべきことで、凄い奴だなと思う。


その反面、私は、結局ガツガツ働いている。

あんなに憧れていた南国での悠々自適な生活への憧れもなくなり、目的を失っていた。


それと、一番の憂鬱は年齢かもしれない。

37歳独身。

友人達は、みな結婚して子供がいたりする。

そんなことに憧れる私ではないと思っていたが、最近は、そんな光景が羨ましく感じる。


彼のお母さんにも、

「いい人できたら結婚していいのよ!」

「あの子は、同じ場所にも同じ日常にも、すぐ飽きちゃう子だから」

と言われることもある。


 ある日、彼は突然帰ってきた。

でも、すぐに次の地へ向けての準備に入る。


最近は、日本に帰って来ても、バイトはしない。海外でも充分お金を稼げる術を知っているからだ。

さらには、お金や物資を工面してくれるボランティアの仲間が日本にもいる。

どこに行っても、現地の人達にすぐ馴染み、今や、ボランティア団体と現地のコーディネーターとの橋渡しができる程知られた存在らしい。


 そんな彼に、目的を無くした私は、


「私、そろそろ結婚して落ち着きたい。子供も欲しいし」


と言ってしまった。


「誰か好きな人できたのか?」


それが、彼の答えだった。

私とは結婚する気はないんだ。

私の住む家は、ただの日本の拠点だったんだ。


彼は、この話にはそれ以上触れずに、次の地トルコに旅立った。


(自由人+元自由人)×19年=0


だったんだ。






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