第5話 僕は帰るぞ!

「まず、あたりまえだけど喧嘩はご法度だ。僕たち生徒は、良識の範囲で、魔法能力による研鑽が認められている。これは学園に限らず、公の常識だよね」


 そりゃあそうだ。みんなが魔法能力で好き勝手に暴れていたら世も末だろう。

 女の子はおもしろくなさそうに口を曲げていたが、僕は大いにうなずいた。


「もうひとつ、この学園では過去にひどい生徒がいたらしくてね」


「ひどい生徒?」


「いっとき、治安が荒れに荒れた時機があったらしくてさ。剣で同級生や上級生を斬り殺しまくった不良生徒がいたらしい。昔の話だけどね。教育委員会で問題になったんだ」


 どんなやつだよ……幕末京都の人斬りかよ。魔法剣士の魔法はどこへ行った。


「だから、校内での私闘は厳禁。模擬試合にも教員の立ち合いが必要になる。それがルールだ。守らない生徒にはペナルティが課せられる。謹慎きんしん、最悪は退学」


「むー、私と彼の勝負には、教員の立ち合いが必要なんですね」


 むーじゃねえよ。サラッと僕を巻き込むんじゃねえよ……

 こそこそと帰ろうとする僕を逃がさないように、彼女は僕の学生服をつかんだ。


「では先生を探しましょう。まつりくん。待っていてください。」


 誰が待つかあ! こんな場所にいられるかよ、僕は帰るぞ!

 貴重なプライベートの時間をうばわれてたまるかっての。

 僕は、女の子が背を向けた瞬間を見計らって、あっかんべーと舌を出した。

 そのまま、さっさと帰ろうとした矢先に……


「その必要はないわ」


 またしても、余計な天の助けがあらわれた。

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