第43話
考えなしにFUBEへと舞い戻ったはいいものの。
そう言えば、ディーテは殆ど死んだも同然の扱いで、それがふたたび姿を現したとなれば、とんでもない騒ぎになるかもしれない。
だからといって、オディット態を取れば、それはそれで別の騒ぎに発展し、エンデを探すどころの話ではなくなってしまうだろう。
その実、オディットとして活動を始めて数か月ながら、妙にフリルに好かれるようになってしまったディーテは、今や雲上においても、「ユニットを組みたいフリルランキング」で上位になってしまうほどの有名フリルになってしまった。(ディーテも、アルテア伝てにその事実を聞いた時はあいた口がふさがらなかった)
今を時めくそのネームバリューは元より、フリルを救うために現れるという特性から、今までになかったフリルにとってのヒーローとして、特にルーキー世代から支持されているのだ。
ミステリアスなそのカリスマ性、そして、あのランジュすらも袖にするようなフリルの心を射止めたなら、どんなにか注目を浴びることだろうと、ユニットの座を狙う中堅どころも多い。
そんなオディット(=ディーテ)が、エンデを探しに来たとなれば、ともすればエンデがフリルたちのやっかみの標的になるやも、と、ディーテは思った。
まさか、あんなにも落ちこぼれと謗られて来たおのれが、こんな立場に立つことになろうとは……分からないものだと嘆息する。
ディーテは、いつか、その場しのぎで使った姿(ディーテとオディットのあいの子のような変容)をとった。
そして、あてどなく雲上をフヨフヨと彷徨う。適当なフリルをつかまえて、エンデのことを知らないか聞こう……そんな、行き当たりばったりな考えである。
めぼしいフリルをば……雲間を縫いながら、あたりを見回す。鍛錬中だとか、打ち合わせ中だとか、世間話に付き合ってくれそうな手隙のフリルはなかなか見つからない。
ディーテは、もう少し上層の方を探そうと、グンと上昇した。モフリと、勢いよく水蒸気の中へ突入、ピカッと小さい雷が瞬き、咄嗟に瞼を閉じる。
「うわぁっ!! 何!? 誰!?」
ボハッと勢いよく顔を出した途端、そんな素っ頓狂な叫び声が間近に聞こえ、ディーテはゆっくりと瞼を開いた。
橙色の髪のフリルが、腰を抜かしてそこに居た。
「やあ、驚かせてごめんね」
「ん……? あ、誰かと思えば」
「え、もしかして、覚えて、る……?」
「うん、まあ」
「そう……」
凄い記憶力だと、ディーテは感心する。奇遇な話で、ディーテが今の姿を取ったときに言葉を交わした二翼のフリルの片方と、同じ姿でふたたび遭遇したのである。
「運がいいわ! もし私の憶測が正しければ、二度とその姿は見れないんじゃないかと思ってたから。私、貴方に直接聞きたいことがあって。きっと貴方以外に話したらすごく馬鹿げた話だって笑われちゃうと思ったから、今まで誰にも言ってないことなの」
橙色のフリルは、そう捲し立てながら、大根の収穫みたいにディーテを雲の中から引っこ抜き、鼻先が触れるくらい間近でランランと瞳を見開いた。
ディーテはその勢いに目を白黒させ、咄嗟に手のひらでその大きな目を覆い隠しながら仰け反る。しかし、まるで閉じ込めるように、相手の翼に背後まで回り込まれてしまい、すっかり逃げ場をなくしてしまった。
「ちょ、ちょい、ちょい、ちょっと待って、ちか、近いし、急に何……!? 藪から棒にもほどがあるってば……そもそも私、君の名前すら知らないしッ……!」
「変なの、私の名前なんかに興味あるの? まあいっか。ラナンスよ。ラナって呼んで。これでいい? 早速本題だけど」
「頼むから一回落ち着いて……!」
「……? 取り乱してなんかない、ずっと冷静よ、私。生まれた時から」
冗談だろうかと思い、恐る恐る手をどかして表情を確認してみたが、そこにはどこまでもマジな真顔があり、ディーテはほとほと参ってしまった。
初対面の時は黄色い子の背後に隠れてこちらを窺っていたから、いかにもシャイな感じの子だと思っていたのに。
フウと一つ嘆息。埒が明かないので、ひとまず話を聞いてみようと、ディーテはラナンスの暴挙を受け入れた。諦めたとも言えよう。
「私と君って、前回が初対面だったよね? 一体私の何が気になったの?」
「何がって……全部?」
「全部か……」
「単刀直入に聞くけれど……貴方って、あくびちゃんよね?」
瞬間、ディーテの脳は灰色の焦土と化した。目にも止まらぬ爆弾投下であった。
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