第42話
ランジュは、諦めこそしないものの、ユニットの結成をしつこく迫るようなこともしない。
そも、ディーテを勧誘することにいつまでもかかずらっていられるほど、暇なフリルでは無いのだ。今回も、FUBE上層部からの呼び出しらしい伝書鳩の襲来が10羽を超えた時点で、しぶしぶ雲上へと戻っていった。
徐々に遠ざかっていく見事な翼を見送りながら、ディーテは、ユニットという言葉を耳にするたび、頭をよぎってやまない、大好きな姉貴分のことを思う。
「エンデ、今頃どうしてるかな……私よりも魅力的なフリルを見つけて、そっちに心を奪われてたらどうしよう」
ディーテは、今でこそランジュやミュスカ、その他共闘したフリルからユニットの申し出を受けるようになったが、エンデは、ディーテが鼻つまみ者だったころから、引く手数多のフリルだった。
「そもそも、私ってFUBEじゃアルテア様の眠りを保つためのリソースになったって言われてるんだよね……? それじゃ、もう、エンデは私のことなんて忘れちゃってるかも……」
もし、誰かにエンデを取られてしまっていたとしても、勝手に地上へ降りてアルテアの下働きにうつつを抜かしていたディーテが咎める筋合いはない。
もし、エンデがディーテのことを諦めて、他のフリルと楽しくやっているなら、もう、ディーテはエンデの前に姿を見せるべきではないだろう。
何にせよ、確かめなければ。ディーテは、さっそくアルテアに里帰りの許可を取るべく、教国へと飛び立ったのだった。
+++
「……何か、地上での生活に不満が?」
教国から、拠点であるアパートメントへ帰途につくさなか、FUBEに帰りたいと切り出せば、アルテアはにわかに声色を凍てつかせ、そう言った。
ディーテはヒュッと息を呑んだ。もしか、暇乞いと思われてしまったのかと。今や、マルメロ商会での事業は殆どディーテが担っている。それを途中で投げ出すとなれば、さしものアルテアであっても相当の負担が強いられるだろう。
「誤解です……! その、日帰りで、雲上の様子を見に行きたいというだけで……できるだけ、スケジュールに穴が開かないよう調整したうえで、勿論、アルテア様のご用事を優先いたしますから!」
「もしかして、いつか話した、心に決めた相手の様子が気になるとか?」
「……はい」
「びっくりした……仕事を押し付けられるのにうんざりしたとか言われたら、心臓が止まるところだったわ……もう貴方無しじゃマルメロ商会の業務が回らないのよ。オーナーの権限もほとんど貴方に移したもの」
「そうだったのですか……!?!?」
「のんびり屋さんなんだから」
まるで気付かないほうがおかしいみたいな言い草だが、アルテアのほうこそ、大事なことを断りもなく進めて、まるで悪びれていないのだから、まったく人騒がせなことである。
「まあ、それは置いておいて……そんな事情なら、勿論、許可するわ。こちらのことは気にせず、久々に羽を伸ばしていらっしゃいな。早速、明日にでもどうかしら」
「明日……!? ですが」
「いいの、貴方の都合も考えず、振り回してばかりだったもの。せめてものお詫びよ」
「とんでもない……! お心遣い、ありがとうございます」
アルテアは、返答代わりに、飛行馬態のディーテの鬣をさわさわと撫でた。
ああ、と。ディーテは息をつく。優しい手つきなのに、まるで、背中を強く叩かれたみたいな心地だった。
もし、まだ待ってくれているのなら、エンデと正式に比翼の契りを交わしたい。
と同時、エンデと結ばれたとしても、地上でアルテアのことを手伝っていけたら、どんなに幸せなことだろう。
エンデには、何もかも、包み隠さずに打ち明けよう。そうして、エンデからも
地上に降りてから、目まぐるしくも充実した日々を過ごしてきたディーテには思いもよらなかった。
事実がどうあれ、心に決めた相手を失ったエンデにとって、問題は、待つか待たないかなどという悠長な次元になく。
そも、脇目を振る余裕すら、エンデには無いのだと。
自らが思うよりも、エンデは、ディーテのことしか見ていない……その深刻さについて、思い知ることとなるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます