第34話
唐突に、ドロリと、眷属たちが消滅する。
ディーテとピオニュは、ほぼ同時に厄災へと視線を向けた。
案の定、スタン状態から復帰し、活動を再開しようとしているらしい。
眷属と戦っている間にも消費し続けた翼力。三翼とも、既に厄災の本体とまともに戦えるほどの余力はない。
「救援はまだなんですの……!?」
「……ピオニュ、ごめん。一発だけ、援護射撃が欲しいんだ。頼めるかい?」
「……よろしくてよ。ただし、間違っても、死ぬことは許しません」
「ああ、ありがとう」
「貴方のためじゃありませんわ。私たちのミュスカを騙った不届き者を裁く必要がございますもの」
「ハハ、お手柔らかに……」
ディーテは、丁重な手つきでミュスカをおろした。そのまま、レイピアを構え、姿勢を低く構える。
(いちかばちか……!)
「ピオニュ!!」
虚空を蹴り、叫ぶ。ダン、と、放たれた銃弾。ディーテは、自らの翼でそれを受け止め、その衝撃のまま、厄災へ向けて突撃した。
他者の翼を操作する原理を応用し、ピオニュの翼力によって作り出された銃弾の速度を、自らの翼に取り入れたのである。
そのあまりの速さに、ディーテはミュスカの変容を保っていられなかった。しかし、執念によって、レイピアを構えるのだけはやめなかった。
幾重にも渡る触手での防御すらも貫通するその勢いのまま、ディーテはレイピアを深々と厄災に突き刺した。
押し返す衝撃で、軽く吹き飛びそうになるのを何とか堪え、翼力をかき集めて、全てをレイピアの切っ先に流し込む。
当たり前に、ふたたび、ディーテの首やら四肢やら翼やらに纏わりつく触手。しかし、その締め付けすらもそのままに、ディーテは渾身を振り絞った。
「ああああああああああああああああああああ゛!!!!!!!!」
キン……そんな、鋭い音が響く。
しかし、それは厄災の断末魔などではなく。
ディーテのレイピアが砕ける音だった。
「ミュスカ!!!!!!」
モフィの悲痛な叫びが響く。ああ、駄目だ。フリルがそんな声を出して、人々を不安にさせては……ディーテは、朦朧とする意識のなか、いっそ暢気にそんなことを思う。
もう、このまま自爆するしか……そんな考えが過ったとき。
歓声が沸いた。尋常でない声々だった。
「あの光……まさか、ランジュ様が……!?!?」
モフィの呆然とした声に、ディーテは閉じていた目を見開いた。
ゴウン、ゴウン、と、鐘の音が響き渡る。心なしか、触手の力が緩んだように感じ、ディーテは今にも失いそうな意識を何とかつなぎとめた。
瞬間、ディーテに纏わりついていた触手が霧散する。唐突に解放され、そのまま落下していくディーテの身体を、しかし、何者かが受け止めた。
「……! きみ、は」
「ランジュ、さま……」
憧れそのものの姿、まごうこと無き、ランジュであった。
「モフィ、無事ね」
「え、あれ!? ミュスカ!? え、じゃあ、今まで戦ってたのって……!?」
上空から聞こえ来る、素っ頓狂なモフィの声。しまった、モフィにもバレたか、なんて、他人事のように思う。
なお、ランジュの美貌から目が離せないまま。
そして、何故か、ランジュまで、取りつかれたかのように、ディーテの顔を凝視していた。
「……!」
息を呑む。ランジュの背後に蠕動する厄災が、太陽にも引けを取らぬ輝きを前に、すぐさまそれを排除せんと、轟音を上げた。
しかし、ランジュはそちらを一瞥だにしない。夢を見ているような顔で、ただ、ディーテと見つめ合うだけで。
「ちょっと、黙ってくれる」
一言だった。バサリと翼を広げただけ。
それだけで、あれだけ猛威をふるった厄災は、呆気なく、細切れになったのだった。
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