第51話 隠れ家


忍の火之迦具土神ヒノカグツチは上空から押し潰すように迫る極高温の火柱となり迫り、ミラの小さな拳から放たれたのは可視化出来るほどに圧縮された赤い衝撃波。


クスタファの天津風はヘカトンケイルを包み込み、切り刻んでいく。さらに火之迦具土神は天津風の影響で火力を上げヘカトンケイルを焼き尽くそうとしていた。


それら全ての攻撃にヘカトンケイルの全身から放たれた光が触れると、大規模な爆発を起こし大地を揺らした。

爆風で三人は吹っ飛ばされ、ミラに至っては受身が取れなかったせいかゴロゴロと転がっている。

だがそれも運が良かった。

その場から離されていなければ、天にも届きそうな爆炎に呑まれていたかもしれない。


「世話の焼けるガキだな」

「えへへ、ありがとーシノブン!」


忍はミラを拾い上げクスタファの隣に着地。

今だ爆煙の立ち込める沼地はヘカトンケイルがどう言う状況にあるのか、答えを焦らしている。


忍の中では、いや、三人の中では確かな感触があった。それぞれが現時点で可能な最大火力をぶち込んだのだ。

それを感じ取ったヘカトンケイルも全霊をかけて対抗したはずだ。


もし耐えたのならば、それは敵を賞賛するしかない。火力不足ではなく、単純に耐久力の問題だ。


「さて、奴さんは逝ってくれたかねぇ」

「お前のそういうのフラグって言うんだよ。要らんこと言うなおっさん」

「手厳しいねぇ忍くんは」


モクモクと登る黒煙を睨みながらそんな事を言い合っていたその時だった。

黒く焼け、切り刻まれ、更には数本の指がおかしな方向に曲がっている腕が、煙を突き破り三人を握り潰そうと伸びる。


「わっ! ま、まだ生きてるのー!?」


それを驚愕し、咄嗟にクスタファの後ろに身を隠したミラだったが、二人は避ける素振りも防ぐ素振りも見せなかった。


「大丈夫だよミラちゃん」

「ああ、もう終わってる。敵ながら天晴れな執念だな」


ズタズタになった掌は三人の手前まで伸びるがそこまでだった。

最後の力を振り絞って伸ばした腕は力無く地に落ちた。そしてそれ以降、ピクリともうごく事はなかった。


こうして無事、百腕の巨人ヘカトンケイルの討伐を果たした。


「お、そうだそうだ。すっかり忘れてた。忍くん、受け取りなよ」


クスタファはおもむろに懐に手を入れたかと思うと、何かを取り出し忍に向かった放り投げた。


「これは……。いいのかよ、アンタらにはアンタらの目的があったんじゃねぇのか」


受け取った手の中にあったのは、赤く光るコアの欠片だった。勿論回収する予定であり交渉しようと思っていた忍だったが、まさか向こうから渡してくるとは思わなかった。


セロスの為に集めているコアだが、それ以外に使い道があるのかどうかもわからない忍は、クスタファ達が何故これを集めていたのか疑問だった。


しかしクスタファは目を丸くしキョトンとした表情で、


「それはそうなんだけど、欠片は元々譲るつもりだったよ」

「……は?」

「いやぁね、2、3年前くらいかなぁ? 爺さんから一通手紙も貰ったんだ。まぁ色々書かれていたよ。んで、そこからあーだこーだして会いに行ったら酷い事になってたねぇ」


あーだこーだが何を指すのかは不明だが、恐らくクスタファが当時向かったのは廃棄の森だろう。

そこでの光景を思い出したのか、少し悲しげな目をして続けた。


「それから大変だったよォ。なんせ手掛かりがないときた。あらゆる手を使ってやぁーっと君らの隠れ家を見つけたんだ。それもつい最近、十日位前かなぁ」


そう、忍とセロスは廃棄の森を離れ全く別の隠れ家に移り住んでいた。まともにセロスが動けない状態で同じ所に留まるのは得策ではない。

極力見つからない場所に定めたつもりだったみたいだが……


「そんな簡単に見つけられるはずは──まぁいいや。んで、セロスに聞いてここに来たって感じか?」


隠れ家を見つけたのには驚きだが、バレてしまった以上追求しても意味はない。

それに、ピグマリオンの弟子ならセロスと面識があるはずで、その彼女が情報を渡したのならこれ以上の警戒は必要ない。


「アロラ遺跡を経由して、だけどねぇ。んま、そんなこんなでここに来たら欠片を見つけたって訳サ。これを君が集めていたのも知ってるよ、勿論その訳もね」

「そうかよ、なら遠慮なく貰っとくぜ。どの道必要なもんだからな。お前らはこの後どーすんだ? わざわざ世間話をしに俺を探してた訳じゃねぇだろ?」


忍の言う通り、彼らはそれなりの時間をかけて忍を探していたはずだ。世間話と怪物退治では説得力に欠ける。


「んま、その辺と欠片の件・・・・も含めてセロスちゃんも交えて話そうじゃないの」


◇◇◇◇◇◇


「ってな事があって、今に至る訳だが……セロス、お前俺に謝ることあるんじゃねぇか?」


ここはエザフォースの北東に位置するとある山の奥地。標高はあまり高くない。せいぜい数百メートルだろう。

近隣には小さな村が一つあるだけで、その他は似たような山に囲まれている。

そして村人ですら滅多なことがない限り山の奥地に入る事はない。それは単純に麓で山菜が採れるため行く必要がないからだ。


そんな山奥に簡易的な家を建て、人避けの結界を張っているのが忍とセロスの隠れ家だ。


あまり生活感もなく家具なども最低限しかないのにも関わらず、あまり広くないその家に寝たきりのセロスを含めて4人。中々に窮屈だ。


「それよりも、髭ダルマなんて招待した覚えがないわ。勝手に連れてきたのは忍、貴方でしょう? ならまずそこを謝る事ね。それと、私が貴方に謝る事なんてただの一つもありはしないわ」


簡易ベッドで横になっているセロスは、寝たきりだと言うのにやはり高圧的な態度に変わりはなかった。

因みに髭ダルマと言うのはクスタファの事である。






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