第48話 不格好な共同戦線
「──シノブ!!」
唐突にカイムが叫んだ。ほんの僅かな時間、気を緩めてしまった忍はその声がなかったらこの世界から退場していたかもしれない。
「ッ!」
咄嗟の判断で横っ飛び。
真横をとおりすぎていく光は、どこまでも大地を抉り数キロ先で大爆発を起こした。
もし、今のが直撃していたらと思うと寒気がした。
殺したはずのヘカトンケイルに視線をやると、
(──再生!? ……いや、超速再生か!)
顔面の半分を消し飛ばしたはずだった。
その傷口からボコボコと肉が膨れ上がり眼球を、脳を、骨に変化し一秒にも満たない時間で失われたはずの顔面を再生させた。
超速再生。条件はあれど基本的に致命傷でも関係なく再生するチート地味だ能力だ。
たった一つ、それだけで神をも殺す力を手に入れることが出来る。
ではそれが神にも似た怪物が保有していたら?
答えはいたってシンプルだ。──勝てない。
忍はこれまで屠ってきた魔物や神獣を思い返した。
冥府の死者カリス、狂戦士イペタム、焔の騎士パイアン、瘴気の主カダベル、海龍王リヴァイアサン、吸血鬼の王ヴァンパイアロード。
そのどれもが強力だったが、首を斬れば死ぬし心臓を貫いても死ぬ。ましてや頭を吹っ飛ばして生きていられる訳もない。
だが目の前の巨人、ヘカトンケイルは違う。
どういう体構造になっているのかは不明だが、限りなく不死に近い能力を保有している。それに加えて見るからにわかる怪力と、即死濃厚な魔法。
まだ全ての力を出してはいないだろうに、既に攻略が極めて困難な相手だと言うのがわかる。
そして数秒後には泥沼から脱出するだろう。
その前に忍はヘカトンケイルから十分に距離をとった。
「悪ぃ、助かった。ついでにアレの攻略法わかるか? 目の上のたんこぶなら多少はなんか知ってんだろ?」
「ヘカトンケイルの攻略法なんざ知ってたらオレ様がぶっ殺してるんだよ!!」
そう喚いて直ぐに「あ」と間の抜けた声をだし、
「噂だ……確証はないぞ。それでもいいか?」
「充分だ。頭吹っ飛ばしても死なないんだ、後はなんでも試すしかねぇだろ」
既にヘカトンケイルは沼から這い出ようとしている。こうして話す時間もあまり多くない。
「ならあのオッサンとチビッコの協力が必要だな。見た所結構やれそうだしよ」
カイムがそう言うと、忍は舌打ちをしながらもすぐさま二人の所へと駆け出した。
「シノブンだ! またジューッてするの!?」
ミラは忍の一連の動きを見て、余程気に入ったのか目を輝かせている。
「ジュ……? ああ、アレか。もうしねぇよ」
「ミラちゃん可愛いだろう? いくら忍くんの頼みでもこの子は嫁には出さないよォ?」
「言ってねぇだろうそんなこと! それに要らねぇよ別に。そんな事よりアイツをどうにかするのが先だろ」
どこまでもヘラヘラと緊張感に欠ける二人を前に、忍は本当に頼っていいのか不安になってきた。
そんな時、カイムが大声で「黙らっしゃいッ」と一喝。
結果的に黙ったものの、それは剣が喋るという物珍しさから言葉を失っただけで本来意図したものとは別だ。
それを察した忍は呆れ顔で、
「驚くのと質問は頼むから後にしてくれ。アイツを倒した後いくらでも答えてやる」
「ナイスアシストだぜシノブ! オレ様はガキとじじいは好きじゃねぇんだ! いいかよく聞けよ、これから話すのはあくまでも噂だ。ヘカトンケイルの腕をよく見ろ。そっちじゃねぇ背中の方だ」
一堂の視線は左右の腕から、背中に生える無数の腕へと移動した。
何十本と生えた腕は生えている場所とその数以外には特におかしな点はない。
「あの腕のどれかが再生能力の源、いわば核の部分、らしい。オレ様もあまり信じちゃいねぇが試してみる価値はあるんじゃねェのか?」
とは言ったものの、何十もあるうちの一つとなるとそれなりに時間もかかる。時間がかかるということは、それだけ危険という事だ。
見た所わかりやすい印などもなく、どれも同じに見えてしまう。探すだけでも一苦労だ。
「ん〜……なるほどねぇ。中々いい相棒じゃないの忍くん。それじゃあ一丁、兄弟子のいい所をみせてやろうじゃあないの!」
クスタファは少しの間考える素振りを見せたかと思うと、頷いて腰に差していた脇差を抜いた。そしてニヤリと笑い一人ヘカトンケイルへと駆け出した。
「あー! ずるーいクスタファ! ミラもやるー!」
その後を話を聞いているのかどうか怪しいミラが追いかけた。
「おい……! アイツらは協調性ってもんがないのか? まぁその方が俺もやりやすいけどな」
「ケケケ、お前も大概だぜシノブ」
飛び出した二人にため息をつきボヤく忍だが、カイムの言う通り先程一人で飛び出しているので協調性を言うにはブーメランだ。
「うるせぇよ。んじゃ、不格好だが共同戦線と行きますか」
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