第45話 エタンドル跡地


ロードを倒した忍はそのまま奥へと進むと、祭壇のような場所に辿り着いた。

元々は何か別のものを祀っていた祭壇の中央には、紫色の欠片がポツンと置いてあった。


「これで欠片はあと一つ、か」


欠片と言っても五センチ程の大きさはあり、それほど小さいものではない。それに色もそれぞれ違い、二つ目の欠片の時は戸惑ったものだ。


とにかく、これで七つある内の六つの回収に成功した。

残る一つはこのアロラ遺跡からそう遠くない場所にある。


普段は回収の後に一旦セロスの元へ戻るのだが、今回はそのまま行こうと決めていた。

同じ道を二度往復するのも面倒だし、なにより早く七つ集めセロスに渡したかったからだ。


セロスはベッドから動けないでいる。本人は気にしていないと言っているが、一年以上もそんな生活をしていて気にならないはずがない。

それにプライドの高い彼女の事だ、忍に世話をされる事をよく思ってはいないだろう。


「この遺跡も調べてみたいけど、それでまた今度にしよう。……行くか、エタンドル跡地に」


最後の欠片はピグマリオンとセロスの過ごした国、エタンドルが存在した場所にある。

セロスを連れてきてやりたいが、それは現実的ではない。


忍は足早に来た道を戻り、アロラ遺跡を後にした。


◇◇◇◇◇◇



アロラ遺跡を出てから数時間後、忍はようやくエタンドル跡地にたどり着いた。


道中カイムが「腹減った」と連呼しうるさかったので、適当な魔物を見つけ血を与えた。

もしカイムがもう少し我慢強かったのならあと一時間は早く辿り着く事が出来ただろう。


「これがエタンドル跡地か、ひでぇもんだな。数十年も経ってるはずなのに、未だに戦争が目に浮かぶな……」


眼前に広がるのはほとんどが荒野と化しているが、城壁の一部であったり、家屋の一部と思われるものはいくつか残っていた。

当時炎の海となったこの場所は未だに草木の一本も生えておらず、戦争の影響は消えていない。


そんな跡地を呆然と見ていると、ある疑問が浮かんだ。


「これ、どこ探せばいいんだ……?」


わかりやすい遺跡や神殿とは違う。見渡す限り荒地しかない。建物と呼べる物は存在せず、残骸がちらほらあるだけだった。

その残骸を一つ一つ引っぺがして探す訳にも行かず、一度セロスの所へ戻らなかった事を後悔した。


彼女ならばある程度心当たりがあるかもしれない。と言うよりもなかったら詰みに近い。


仕方なく広大な跡地を歩いてみるもやはり怪しい点はなく、欠片かありそうな場所はなかった。


「どうすっかなあと一つ。このまま戻ってみるしかないけど、アイツに何言われるか分かったもんじゃない──なんだ……? 人?」


プラプラと歩いていると遠くに人影が見えた。

数は二人。一人は成人しているだろうが、もう一人は子供サイズだ。


パッと見、親子のような感じはあるがまともな人間がここに来るはずがない。

エタンドルが滅んだのは数十年も前だ。老人ならば分からなくはないが、そうでないなら思い入れなどはないに等しい。


おそらく、何か明確な目的があってこの場にいるのだろう。


(怪しさ満点だけど、それはお互い様だか。警戒するに越した事はないな)


それに、どうやら向こうもこちらに気付いている。


「とりあえず話してみるか」


警戒しながら近付いていくと、向こうは逃げる素振りもなくただその場に立って忍を待っているように見えた。


「あー! やっぱり来たよクスタファ! 誰だろー誰だろー!」

「こらこらミラちゃん。知らない人に向かって指をさすもんじゃあないよ」


一人はピンク髪のツインテールの少女と、もう一人はくせっ毛のある中年だ。

少女は露出の多い服を着ており脚、腹、肩と白い肌が覗いている。

反面、中年の方は風来坊のようなボロっちいローブを纏い顔面以外の肌は見せていない。


もっとも、中年オヤジの肌なと誰も見たくはないのだが。


忍ははしゃぐミラに少し毒気を抜かれ呆れたように、


「子連れかよ、あんたらこんな所に何の用だ?」

「いやあ、君を待っていたのさ。忍くん、で合っているかな?」


自分の存在を知っていて、わざわざ待っているとなると話は別だ。

忍は即座に距離を取り剣を抜いた。


この二年間、イリオス以外にも幾つかの国と揉めた。滅ぼしてはないが、狙われる理由は掃いて捨てるほどある。


待っていたと言うのならそういう事である可能性が高い。


「そんなに慌てなくてもいいじゃないの」


クスタファはのんびりとした口調でそう言うと、懐からある物を取り出した。


「てめぇ……何もんだ。なんで俺がソレを集めてるって知ってやがる」


彼の右手にあるのは赤く光るコアの欠片。忍が今、喉から手が出る程欲しい物だった。


「コレ、欲しいかい?」

「人の話を──なッ!!」


言いかけた所でツインテールの少女ミラが飛びかかってきた。

咄嗟に回避行動を取るも、頬を掠めた拳はとても少女の放つ速度ではない。

それどころか爆風を巻き起こす程の拳速。このこの状態・・・・忍でも同じ事が出来るかどうか。


チラと後ろを見てみると、数十メートルにわたり拳による衝撃波が大地を削っていた。

嫌な汗が額に垂れる。


忍は呆れた様に、


「本当に餓鬼かよコイツ」


ミラは空高くバク宙しクスタファの隣に優雅に着地すると、先程はしゃいでいた少女とは別人のような低いトーンで呟いた。


「クスタファに剣を向けちゃダメだよ」






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